日韓関係の「関係改善の糸口」はどこにあるのか

ムン政権が「GSOMIA終了」を決定した背景

米韓両国は2020年代中盤に戦時作戦統制権をアメリカ軍から韓国軍へ移すことで準備を進めてきたが、文在寅政権は任期内すなわち2022年5月以前への移管前倒しを目指して韓国軍の国防力強化を急いでいる。かつて盧武鉉政権は「協力的自主国防」を掲げて、米韓同盟を基盤としつつも、韓国の主導的な役割遂行を可能とする国防体制の構築に取り組んだが、文在寅政権の安保政策もこれと軌を一にしている。

文政権が目指す移管前倒しが実現するのか予断を許さないが、今年夏の米韓合同軍事演習では戦時作戦統制権移管を見越した指揮所演習が実施された。移管後も米韓連合防衛体制は維持され、仮称「未来連合司令部」を創設して韓国軍大将が連合軍司令官を務めることが2019年6月の米韓国防長官会談での合意事項である。

こうした変化は、遠くさかのぼれば1950年に韓国軍の作戦指揮権が国連軍最高司令官に移譲されて以来の、あるいは1978年に米韓連合軍司令部が設立されて以来の朝鮮半島における安全保障体制の一大変容である。本来であれば、こうした変化には日米韓3ヵ国の緊密な協議が伴うことが望ましいが、残念ながら現状はそうなってはいない。

次で見るとおり、文在寅政権は戦時作戦統制権の移管に伴う安保体制の変容を、韓国が主導すべき朝鮮半島における「脱冷戦」プロセスの一環として捉えており、ややもすれば日米韓の安全保障協力は冷戦期の名残として見なされる傾向がある。

「異なる認識」を超え「新たな関係」を作れるか 

最後に、対北朝鮮政策に関して、防衛と抑止により力点を置く安倍政権と、積極的な関与政策を展開する文在寅政権の違いは周知のとおりである。日本が防衛と抑止に力を入れるのは、北朝鮮の核・ミサイル開発を冷戦後の新たな軍事的脅威として認識してきたからである。日本にとって現在の日米韓安全保障協力は、冷戦後の軍事的脅威への備えにほかならない。

他方で、文在寅政権はじめ韓国の進歩陣営は、北朝鮮の核開発を朝鮮半島の停戦体制、すなわち冷戦構造に起因するものであると強く認識してきた。朝鮮半島が依然として分断状況にあり軍事的対峙が続いていることが何よりも問題との考えである。だからこそ、文政権が現在進める「平和プロセス」では、朝鮮戦争の「終戦宣言」による冷戦構造の解体が優先的に目指されるのである。

ところが、「新冷戦」とも形容される現在の米中関係の行方は、朝鮮半島の「脱冷戦」プロセスを進めている(と認識している)文政権にとって、そのプロセスを挫折させかねない危険性をはらむものである。北朝鮮が非核化措置を取らないことに加え、米中対立が深刻化してきたことは、文政権が外交安保政策で焦りを見せているもう1つの理由となっている。

以上のように、冷戦後に地域パワー・バランスが変化する中で、朝鮮半島の「脱冷戦」プロセスを進めることを最優先する文在寅政権は、日韓関係をどのように認識しているのだろうか。

大きく分けて2つの見方が存在する。一方には、日韓関係が「1965年体制」といわれるように、ベトナム戦争などにより東アジア冷戦が激化した1965年に国交正常化した点に重きを置く見方がある。アメリカの強い要請があったために、日韓「歴史和解」はなされずに不十分かつ不公正な形で関係が築かれたと考えるのである。

他方で、確かに「1965年体制」は歴史問題も含め多くの課題を抱えたままスタートしたが、今日に至るまでの54年の歩みの中で紆余曲折を経ながらも発展してきた、との見方もある。2つの見方は相互排他的ではなく、文在寅政権内にも両者がともに存在するといえるが、現在の対日政策は前者の認識に支配されつつある。

冷戦後東アジアの地域情勢と日韓関係の発展に鑑みれば、冷戦期の枠組みの延長線上で日韓関係や日米韓関係を捉えることができないことは言うまでもない。とりわけ日韓関係については、21世紀に向けた新たなパートナーシップを交わした1998年の日韓共同宣言こそ、今日そして今後の日韓関係を考えるにあたり参照されるべきである。

もちろん、1998年からすでに20年以上が経ち、日韓関係を取り巻く状況はさらに大きく変わった。したがって、日韓共同宣言の精神を継承しつつも、現状を踏まえた「新たな関係」をつくっていくことが、今後の日韓の進む道である。

文/西野純也(にしの じゅんや)慶應義塾大学教授。1996年慶應義塾大学卒、同大学大学院博士課程単位取得退学。2005年延世大学大学院政治学科博士課程卒業。博士(政治学)。韓国・東西大学校大学院客員教授、慶應義塾大学講師などを経て現職。著書に『アメリカ太平洋軍の研究』(共著)など。
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