キャッシュレスが急速に浸透し始めた「必然」 メリットがあるのは消費者側だけじゃない
では今、何のために国はキャッシュレス化を推進しているのでしょうか。
その理由として、第一に効率化があるでしょう。
数年前、あえて郵便局の窓口に送金票と現金を提出する方法で送金をしたことがあります。すると私の送金申し込みを契機に、カウンターの向こう側で数人の局員の方々が帳簿を参照し、また帳票に何かを書き込みながら手配をしてくれました。それを目前で見ていた私は、「ぜいたくな時間を過ごしている」という感想を抱きました。
現在なら機械でできるとわかっている作業を、あえて人間にやってもらっている、大きなコストがかかっている、とてもぜいたくだな、という意味です。
機械による自動化には、創造力を発揮しなくてもできるような作業から人々を解放するという意味があります。もちろん、移行していく途上で、人の仕事を奪うことになりかねないので、そのことについて手当てすることは必要ですが、それはまた別の問題です。
とくに人口減少が実際に始まった日本にとって、人手不足は非常に大きな課題です。だからこそ、機械で済むような仕事はなるべく人の負担を軽くし、その分、より創造的で建設的な仕事に人を回したい。それによって、国の発展に寄与するような、より大きな経済効果を生み出したい、と考えるのは国からすれば当然なのかもしれません。
支払手段のデジタル化で新しい可能性に期待
また国からすると、これまで監視できていなかった「お金」の動きを把握したい、という要求もあるでしょう。それによって、「税金を確実に徴収する」ことはもちろんですが、「犯罪に使われる資金を特定する」といった狙いもあります。これらを言い換えれば「アングラマネー」の一掃です。
例えばインドで2016年に行われた高額紙幣(1000ルピーと500ルピー)の廃止は、まさにそれを狙った施策だったと言えます。現実には、残念ながらその目的は達せられたとは言えない、といった評価もありますが、インドのシンクタンクORFのレポート(“CashlessIndia: Getting Incentives Right”)によれば、キャッシュレス化の歩みは課題を持ちつつも着実に進行しているようです。
また、より大きな影響としては、支払い手段がデジタル化されることで、金銭の流れがモニタリングできるようになる、という期待もあります。それにより、例えば「物流と商流」という重要な社会基盤をアルゴリズム(自動化された仕組み)で支えることができる、という新しい可能性が生まれるのです。
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