キャッシュレスが急速に浸透し始めた「必然」 メリットがあるのは消費者側だけじゃない

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なぜキャッシュレスを推進するのか③――デジタル化推進

キャッシュレス化はそもそも社会のデジタル化の一部である、という側面もあります。キャッシュレス化の技術的な意味は、紙幣や硬貨を作るために用いられてきた「印刷術(プレスして複製する)」という複製技術が「デジタル」に置き換わるということです。

これまでは、紙幣であればまさに印刷ですし、硬貨もプレスするという意味では、基本的には同じく、印刷による複製の考え方で作られていました。

メディア学者であったマーシャル・マクルーハンの『グーテンベルクの銀河系―活字人間の形成』(森常治訳、みすず書房)で詳細に分析されていますが、産業社会では、活版印刷術があらゆる場面で私たちの文明の基盤を形成していました。

しかし今、「お金」の分野に関しては、印刷(プレス)して複製することから、デジタルによる複製へと激変が起きています。銀行の預金残高はすでに数量にすぎなかったのですが、消費者である私たちは多くの場面で紙幣や硬貨を使ってきました。それが急速に変わりつつあるということです。デジタル技術が登場し普及したことで、私たちの文明の根幹が変わろうとしています。

デジタルという言葉はディジット(数字)に基づいています。もともとは、数えるための指が語源になっており、対象を数字として表すのがデジタルです。一方、アナログはそれと対比されるもので、もともとは「類似・相似」という意味であり、連続量や度合いを表しています。

デジタルがもたらした社会の変容

面白いことに、多くの人はアナログという言葉を「アナクロ」、すなわちアナクロニズム、つまり、古くさいとか時代錯誤という意味で使っている感があります。

『2049年「お金」消滅 貨幣なき世界の歩き方』(書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします)

私が子どもの頃、大人たちは普通に「アナクロ」という言葉を使っていましたが、おそらくデジタルがもたらしたインパクトがあまりに強かったのでしょう、「アナログ」という言葉に(実際には間違っているのだけれども)取って代わられてしまいました。

パソコンや携帯、そして鉄道や工場の制御システムなど、広く使われ、もはや現代社会のインフラ的な存在となっているデジタルコンピューターは、数を扱います。文字も、音も画像も、何でも数に変換することで取り扱っています。いったん数にして表すことで、いくら複製しても情報は劣化せず、数学的な手法を用いることで圧縮や暗号化、ほかのデータ形式への変換など、高度な取り扱いが可能となりました。

「デジタルトランスフォーメーション」といった言葉で表現されることもありますが、「お金」の変容も含めて、今、起きている社会的な変化の多くは、本質的にどれも旧来の仕組みがデジタルへと切り替わっていく過程で生まれているものだと私は認識しています。

斉藤 賢爾 早稲田大学大学院経営管理研究科教授

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さいとう けんじ / Kenji Saito

1964年、京都市生まれ。大学卒業後、日立ソフト(現・日立ソリューションズ)入社。1993年、アメリカ・コーネル大学大学院にて学修士号(コンピュータサイエンス)取得。外資系ソフトウェア企業などに勤務した後、2000年より慶應義塾大学環境情報学部村井純研究室に在籍。2006年、同大学院にてデジタル通貨の研究で博士号(政策・メディア)取得。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任講師などを経て現職。長期にわたりP2Pおよびデジタル通貨の研究に従事。著書に『インターネットで変わる「お金」』(幻冬舎ルネッサンス新書)、『これでわかったビットコイン』(太郎次郎社エディタス)、『ブロックチェーンの衝撃』(日経BP社、共著)など。

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