「周囲を不快にする」エース社員を切るべき理由 それでも最悪な事態になる前に行動すべきだ

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知人の企業幹部から、ある有名な映画監督兼プロデューサーの話を聞いたことがある。その人は大作映画を撮っている間、エキストラがたくさんいる倉庫の中を頻繁に歩き回るのだという。そこで、大勢の見ている前でスタッフを厳しく叱責するのだ。

間もなく、サード助監督が監督をまねて、下の人間に対して同じようにひどい振る舞いを始めた。さらに、助監督より下位のスタッフもすぐにエキストラに対して、公然と「ものを食べる小道具」と言い放つなど、無礼な態度を取るようになった。

長い間、無礼な態度を改めない人がいても、解雇までせずにその人を他の部署に移せば問題は解決すると思う人はいるかもしれない。

だがそんなことはありえない。部署を変わったとしても、結局また同じようにひどい態度を取り続けるだけだ。その悪影響を受ける対象が移るだけである。

最近では、経営者、管理職の中に、そうした異動に対して懐疑的な人が増えた。別の部署に移そうとすると、その際の引き継ぎで周囲の人間が消耗するので、異動はさせたくないという声も何人かから聞いた。

今すぐ言い訳はやめるべきだ

もちろん、相手が態度の悪い人間だからといって、特別に強い態度に出るべきではない。ただ、他の人たちと同じ基準で公平に扱うべきということだ。他の社員たちだけでなく、顧客、供給業者など、関係する人すべてに対し、どういう態度を取っているかを見て、それで扱いを決める。

サウスウエスト航空では、社員は他の社員に対するとき、顧客に対するときと同じように敬意と思いやりを持たなくてはならない、というのを会社の理念としている。

そのサウスウエスト航空は、もし顧客が社員に対して無礼に振る舞った場合にどうするのか。社員が無礼な振る舞いをしたときと同じである。

サウスウエスト航空に関しては、こういう話を聞いたことがある。乗務員に対して喧嘩腰に振る舞った乗客がいた時、同社のマネージャーが、他の航空会社のカウンターまで連れて行き、彼のために航空券を購入した。わざわざ費用を負担してライバル会社の顧客を増やしたわけだ。

経営者や管理職にとって、無礼な人間に対して厳しい姿勢で臨むことは容易ではない。「彼にも悪気はないんだよ」「彼を辞めさせたら代わりを見つけるのが大変だ」などと言い訳をして、厳しくすることを怠ってしまう。「彼を辞めさせるような余裕はない」「そういう人なんだよ」「そんなに悪い人じゃないんだ」などと言うこともある。

だが、自分自身と会社のためを思えば、言い訳はやめるべきだ。その人が悪い態度を取っているという現実を直視し、絶対に厳しく対処しなくてはならない。

クリスティーン・ポラス ジョージタウン大学マクドノー・スクール・オブ・ビジネス准教授

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Christine Porath

活気ある職場を作ることを目的とし、グーグル、ピクサー、国際連合、世界銀行、国際通貨基金、アメリカ労働省・財務省・司法省・国家安全保障局などで講演やコンサルティング活動を行う。
その仕事は、CNN、BBC、『タイム』『ウォール・ストリート・ジャーナル』『フィナンシャル・タイムズ』『フォーブス』など、世界中の1500を超えるテレビ、ラジオ、紙メディアで取り上げられている。
ノースカロライナ大学チャペルヒル校ケナン=フラグラー・ビジネス・スクールにて博士号取得。博士号を取得する以前は、スポーツ・マネジメントとマーケティングを行う大手企業IMGに勤務。
共著に『The Cost of Bad Behavior』がある。

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