「日雇い労働者の街」でカフェを営む女性の真意 「ゆるすまち、ゆるされるまち」の日常
「自分にいろんな事情があるように、相手にもきっと事情があるのだろうと慮れる人が多い」と体験的に知っていた。それらは、まさに上田さん自身が人生の中で体験してきたプロセスだった。
今もなお、その確信がココルームや釜ヶ崎芸術大学の活動の根底に貫かれている。
2014年、釜ヶ崎芸術大学をスタートさせると、ヨコハマトリエンナーレから声がかかり、その年の芸術選奨文部科学大臣賞新人賞を受賞した。受賞理由には「アートによる社会包摂が一般的でないころから地域社会で特色ある活動を継続してきた」とあった。
地域の外の人も常連も
しかし、上田さんはその活動を「社会包摂」と呼ばれることに違和感も覚えた。
上田さんが目指す活動は、釜ヶ崎で暮らす人だけに向けたものではない。地域の外から来る人が、講座の中でふとしたおっちゃんの言葉に励まされることも多い。
「弱い自分でも変われたから、みんなも頑張って」
目の前にいない誰かのために働く名もない人とは、私たちひとりひとりだ。そのすべての人が、吉野の星空で見た星のように輝いていることに気づかされる。
「明日どうなるかわからない。それはきっとみんな同じ。いつも今日その日のことを丁寧に、一生懸命取り組んで今があります。私はこの街で本当にたくさんのことを学ばせてもらっている。ひとりひとりがのびのび表現して、お互いにそれを受け止め合って生きていける世の中になるといいなと思っています」
朝10時。2年前からココルームに通うタケちゃん(72)が笑顔でやってきた。大好きな映画と演歌の話をひとしきりして、釜芸の講義を受けるごとにスタンプを押してもらえる学生証を見せてくれる。
「ココルーム大好きやねん。釜芸も面白いよ。これ、ボクが書いたやつ」
そう言って、ココルームの壁にある書を指差す。写真撮っていいですかと尋ねると、「ええなあ。悪いことしてへんから撮っても大丈夫やな」と外野から笑い声が飛んだ。
こうして今日もまた、釜ヶ崎の1日が始まる。
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