失われた場を探して ロストジェネレーションの社会学 メアリー・C・ブリントン著/池村千秋訳 ~新システムなき若年失業 大人の責任を考えさせる
1990年代の失われた10年で、日本の若者は行き場を失ってしまった。現在、そんな若者が、再び溢れ出ようとしている。
若年失業に悩む先進国から、日本は学校から職場への移動がスムーズな優れたシステムを持っていると、高く評価されていたこともあった。その中心にあったのは、高校が若者を企業に送り込むシステムだった。企業は高校の成績や生活態度の良い若者を好む。すると若者は、より良い企業に入りたいなら、高校で真面目に勉強しなければならない。これは学校にとっても、若者にとっても、企業にとっても利益になるシステムだ。
私は、ある自動車会社の人から、高卒の若いブルーカラーに生活指導もしないといけないという話を、4半世紀前に聞いたことがある。残業があれば憧れのスポーツカーだって無理すれば買える。でも、意外な出費があればすぐ行き詰まってしまう。高い金利で金を借りたりしたら大変だ。そうならないようにするのも、若い大卒社員の仕事だった。しかし、会社が、技能を育て、貯金を貯めてから車を買えと面倒を見てくれた時代は終わってしまった。若者は貧しくなり、スポーツカーなど買えない。派手な車に乗っているのは、元若者ばかりだ。
雇用情勢の変化で、かつてあったシステムがなくなり、若者のいるべき場所は失われてしまった。日本の大人は、若者を非難しても、新しいシステムは作ってくれない。
アメリカ人である著者は、場に頼れない社会を渡っていくための新しいスキルや戦略を身につけさせよという。行き場を失った日本の若者が、どのように場を探しだしたかも描いている。著者の提案は魅力的に聞こえるが、日本の学校の教師には、その経験がない。日本の大人の責任を考えさせる貴重な本だ。
Mary C Brinton
ハーバード大学ライシャワー日本研究所教授。専攻は社会学。シカゴ大学、コーネル大学を経て、2003年より現職。主な研究テーマは、ジェンダーの不平等、労働市場、教育、日本社会など。日本研究歴は30年以上。1990年代に日本に長期間滞在し、神奈川県の高校、職業安定所などで丹念な聞き取り調査を行う。
NTT出版 1995円 245ページ
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