個人消費が低迷、小売業界の収益とキャッシュフローを引き続き圧迫 《ムーディーズの業界分析》

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コーポレート・ファイナンス・グループ
AVP−アナリスト 澤村 美奈


世界的な金融市場の混乱と日本経済の減速を背景に、小売業界に対するムーディーズの見通しはネガティブである。
収益とキャッシュフローが圧迫されており、格付けへの下方圧力が高まっている。
レバレッジの高い小売業者はより厳しい課題に直面することになり、競争力の強い小売業者と弱い小売業者の格差が一段と拡大するだろう。

概観

日本の小売業界の見通しはネガティブである。日本経済が減速する中で、景気低迷に対して非常に影響を受けやすい個人消費が急速に弱まっている。ネガティブの業界見通しは、個人消費の低迷が長引き、消費マインドの回復には時間がかかるであろうとのムーディーズの懸念を反映している。その結果、小売各社の収益とキャッシュフローは圧迫されるであろうとムーディーズは考えている。


2009年に入り、ムーディーズは、丸井グループとイオンを格下げ、青山商事の格付けの見通しをネガティブに変更した。最近の景気減速に起因した消費マインドの冷え込みの継続により、競争力や市場地位が低い小売業者については、さらにネガティブな格付けアクションを行う可能性がある。


日本の小売市場における熾烈な競争から、ムーディーズが格付けを付与している小売業者は、売上高と収益、両方の持続的な成長について、これまでにない大きな課題に直面している。企業セクターの低迷により可処分所得の増加は期待できず、全体的な需要が一段と収縮している。一方で、オーバーストア状態が続き、競争は業界全体で激化している。このような厳しい環境において、売上高維持の鍵を握るのは、消費者を惹きつけ、変化する消費者の嗜好を充たす「商品力」(品揃え)と「販売力」の強化であるとムーディーズは考えている。


ムーディーズは今後、格付け対象各社の大半はバランスシートの改善が緩やかなものになり、収益は圧迫されると予想している。レバレッジの高い小売業者はより厳しい課題に直面することになり、個人消費の低迷が長引けば、格付けに下方圧力が加わるであろう。


格付け対象の日本の小売業者(2009年2月末現在)
会社名
格付け
見通し
格付けアクション日
セブン&アイ
Aa3
安定的
 
イトーヨーカ堂(注1)
Aa3(注2)
安定的
 
スギホールディングス
A2
安定的
 
伊勢丹
A3
安定的
 
エイチ・ツー・オーリテイリング
A2(注3)
安定的
 
青山商事
Baa1
ネガティブ
2009年1月29日
ユニー
Baa2
安定的
 
イオン
Baa2
ネガティブ
2009年2月26日
丸井グループ
Baa2
ネガティブ
2009年1月9日

注:1.株式会社セブン&アイ・ホールディングスの事業子会社
注:2.イトーヨーカ堂の長期債務格付けAa3は、株式会社セブン&アイ・ホールディングスによる保証付
注:3.実質的ディフィーザンスにより2ノッチ格上げされている。

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