安倍首相はトランプに「使われて」いないか 日米貿易協定は「ウィンウィン」という幻想

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今回の貿易交渉が、トランプ大統領の再選に向けたキャンペーンの一環であることは明らかだ。中国との貿易戦争によって重大な打撃を受けている農家からの支持は大きく下がっているうえ、貿易戦争は当面収まりそうにない。

翻って今回の声明は、トランプ大統領を支持するアメリカの農業関連団体の意見が大きく反映されている。文字どおり発表から数分以内に、ウォールストリート・ジャーナル紙や、他紙の記者は、トウモロコシ、小麦、その他製品の業界団体からこの偉大な「勝利」を称賛しているといったいくつものプレスリリースを受け取った。

「ご機嫌取りをする日本に心底うんざり」

「これはアメリカの農家、牧場経営者、生産者にとって大きな勝利である」とトランプ大統領は語る。「そして私にとって非常に重要なことだ。また君たちがこのニュースを報道することが重要だ。なぜなら知ってのとおり、農家や牧場経営者や、ほかの多くの人々にとって、これはすばらしいことだからだ」

成果を強調しようと、こうした団体の代表者たちを伴った安倍首相を前に大統領はテレビ番組向けの一芝居をうち、それぞれにとって協定がどれほど得策であるかを証言するよう要求したのだった。「日本は特別な存在になる 」。トランプ大統領はそう結び、「そしてこれが私の特別な友達だ」と言って安倍首相に頷いてみせた。

皮肉なことに、こうしたこれ見よがしの愛情表現、そして安倍首相がトランプ大統領の政治目的に身を投じたのと時を同じくして、トランプ大統領が大々的にやり玉に上がった。民主党の大統領ナンバーワン候補であるジョー・バイデン氏を貶めるスキャンダルを渡すよう、ウクライナに対して圧力をかけようとしたというのだ。安倍首相に伴ってニューヨークに来ている日本人記者団は、安倍首相がトランプ大統領と会談している間にそんな騒ぎとなっている事実にはほとんどどこ吹く風という様子であった。

「ニクソン以来、(そしてトランプ大統領の日々の非道な振る舞いの度合いを考えても)、アメリカの政治・憲法上最大の危機的状況の真っ最中に安倍首相はのこのこやって来て、またしてもトランプ大統領にへつらうのか?」と、知日家のアメリカ人識者は話す。

「二国間自由貿易協定合意はいいことかもしれないが、世論のほうは最悪だ。貿易協定が締結されつつある時に、日本人がトランプ大統領がまたもや一大スキャンダルに直面しようとしていることを知る由もなかったのは事実なのだから。それにしても日本がトランプ大統領にご機嫌とりをする様にはもう心底うんざりする。日本の政策が世界の目から見てどれほど不愉快なものか、日本はまったくわかっていない」

ダニエル・スナイダー スタンフォード大学講師

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Daniel Sneider

スタンフォード大学ショレンスタインアジア太平洋研究センター(APARC)研究副主幹を務めている。クリスチャン・サイエンス・ モニター紙の東京支局長・モスクワ支局長、サンノゼ・マーキュリー・ニュース紙の編集者・コラムニストなど、ジャーナリストとして長年の経験を積み、現職に至る。

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