紀州のドン・ファン騒動が教える「遺言の威力」 特定の人の取り分を"半減"させる方法もある

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遺言により、相続人の最低限の取り分であるところの、遺留分相当を与えられてしまっては、その相続人は遺留分侵害額請求を起こすこともできませんので、その遺言に従うしかない、というわけです。

また上述のとおり、兄弟に至っては、兄弟以外の者に財産をあげる遺言を書くことによって兄弟の取り分を0円にしてしまう効果があります。

イメージがしやすいように、別の例を使って、ご説明します。

ここに、父、母、長女、次女の4人家族があります。次女は両親の反対を押し切って結婚し、家を出て行ったため、父は次女に一銭も財産を遺したくありません。しかし、そうした内容の遺言を残すと、次女が遺留分を求めて訴訟を起こす可能性が高く、自分亡き後、妻や長女に争いの火種を残すこととなりかねません。

また、遺言を書かずに相続人同士の遺産分割協議に任せると、「じゃあ、法定相続分どおりに分けましょう」なんていう結果になりそうです。もしかしたら、気の強い次女がそれ以上の財産を持っていってしまうかもしれません。

自分の意思通り遺産を相続させる書き方

そこで、次のような遺言を書くのです。『次女に全財産の8分の1に相当する預貯金を相続させる』と。もちろん、それ以外の財産については、妻や長女へ相続させることをそれぞれ記載します。

次女の法定相続分は4分の1であり、遺留分はその半分の8分の1です。次女は遺留分相当の財産を貰えることになっていますから、遺留分を求めて訴訟を起こすことはできません。また渡す財産を「預貯金」にしておくことで、自宅などの不動産へ次女の持ち分が次女の持ち分が入ることもなく、きれいさっぱり分けられるという効果もあります。

さらに、相続人同士の遺産分割協議では、おそらく優しい妻と長女ですから、法定相続分の4分の1、もしかしたらそれ以上を次女へ渡してしまうであろうところ、自身の意思を反映し、次女へ渡す財産を極力少なくすることができる、というわけです。

今回の野崎氏の遺言は、もちろんこのような趣旨ではなかったと思います。生前から田辺市へ寄付をなさっていたそうですから、田辺市への感謝と今後の発展を期待しての遺言であったと思います。ただ結果として、法定相続人へは大きな影響を与える結果となってしまったことは間違いありません。

遺言を書く際は、その内容によってどのような影響が出るのか、ぜひ考えてみて下さいね。

井口 麻里子 税理士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士

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いぐち まりこ / Mariko Iguchi

慶應義塾大学卒業。2009年2月に独立系の税理士事務所としては最大手の辻・本郷税理士法人に入所。その後、2年半にわたり、メガバンクのプライベート・バンキング部門へ出向。税務顧問を担当し、主に富裕層の相続対策、資産承継、事業承継の相談に応じてきた。帰任後は、相続コンサルティングを主業務とする相続部に在籍。日々、多くの顧客と接する傍ら、執筆活動やセミナーも開き、相続問題の解決に全力で取り組んでいる。趣味はトレッキング。
 

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