老人ホームで「殺してくれ」と叫ぶ高齢者の実情 スタッフに笑顔で接する裏側にある"本音"

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孤独を避けるためにホームに移ってきた老人も多いのだろうが、確かに物理理的な面では孤独は解消されている。職員はいるし、老人もたくさん住んでいる。でも、精神的には満たされたとは決して言い難い。

娘のために考え、諦めて入ってくれた

特別養護老人ホームに90歳の母親を入所させた63歳の女性の場合。

「特別養護老人ホームに入れて、あなたもお母さんもラッキーね」と周りの人からはうらやましがられる。でも、「母親が、入所を喜んでいるわけではない」と、彼女はきっぱりと否定する。

「本人は、家で暮らしたいに決まっているじゃないの。母は、娘のわたしのために考えたあげく、諦めて入ってくれたのよ」

ホームに母親を入居させて5年半たつが、母親の寂しげな姿が目に焼きつき、今でも思い出すと涙が出るという。

住み慣れた家で生活できなくなった母親の気持ちを察し、娘は毎週、母親を訪ねている。しかし彼女のように、面会に来る家族はとても少ないということだ。

寂しそうな入所者に気遣い、みんなのいる食堂で母親と話すことを避け、部屋で話すように彼女はしている。「いいね。あんたのところは娘さんが来てくれて。うちなんか、誰も来ないよ。息子がバカだから、ここに入れられちまったんだよ」。元気な入所者は、彼女に怒りをぶつけるという。

でも、そんな恵まれた彼女の母親でさえ、「早く死んじまいたい」ともらすと娘は語る。決してホームの対応が悪いわけではない。スタッフは親切で、いい人ばかりだ。カラオケが得意な母親は、スタッフにいつも褒められている。それなのに、なぜ、死んでしまいたいのか。

それは、老人ホームに入れられた老人は、どんなに立派なところを用意されても、家族に捨てられたという思いがあるからだろう。老人は、自分が家族の邪魔になっていることを敏感に察知する。

家族から「お母さん、いつまで生きるつもりなの?」と面と向かって言われなくても、早く死んでほしいと思われていることくらいはわかる。

娘に遠慮がちにつぶやく「死にたい」の言葉の裏には「知らない人の中で、死ぬまで暮らす精神的苦痛から抜け出したい。早くラクになりたい」という思いがあるからではないだろうか。

一方、大家族の中で100歳を迎えた人は、決して「死にたい」とは言わないだろう。

ホームの存在はありがたいが、孤独からくる満たされない心は、自分で満たすしかないのだ。

「どんなことがあっても、老人ホームなんかには入らない。絶対に嫌だ!」という老人もいる。しかし、子どもの生活を考えると、結局は入居せざるをえない親は多い。

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