「現役の終わり」がない人のたった一つの視点 京都で出会ったご婦人の中に見た希望の光

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京都を訪れた2つ目の理由は、折しもこの時期に、私が急に1人になったためだ。

通信高校に通う17歳の長男は、いかようにも融通の利くスケジュールを生かして先月、東京から1人、大阪へと旅立った。2カ月間、大阪のシェアハウスで暮らすことにしたらしい。また13歳になる娘のほうは、色々あって2週間ほどイギリスへと短期留学に出かけることとなった。

子どもたちの父親とは離婚して5年になる。現在のパートナーとは別々に暮らしているから、私はこの夏、突如として有り余る1人の時間を手にしてしまったのだ。

今までにも決してこういった時間がないわけではなかった。子どもたちだけで帰省したり、父親と出かけたりなどというときに、数日間1人になることはあった。けれども今回はいつもとは少し違うと思った。今回は、子どもたちが自分の意志で、自分の人生のために、帰る日をはっきりと決めずにうちを出ていく。いつかきっとくるその日に向けたリハーサルなのだ。

喫茶店に入ってきた70代のご婦人

上七軒にはお昼過ぎに着いた。6時半に予約していたビアガーデンの時間まで、ゆっくり散策でもしようと思っていた。ところが、予想を上回る猛暑に早々に音を上げた私は、あたりを見渡し、真っ先に目についた小さな喫茶店の戸を叩いた。

北野天満宮そばに佇む小さなその店は、気のいい夫婦2人で切り盛りしているようだった。アットホームな雰囲気の店だ。私と入れ違いに、ゴルフの素振りをしていた常連さんらしきおじいさんが店を出て行ったので、お客は私1人になった。

おそらくそのときの私は真っ赤な顔で、今にも口から泡でも吹きそうな様相だったのだろう。親切なマスターが気を利かせて、「一番涼しい席へどうぞ」とエアコンの冷風が直撃するベストシートへと案内してくれた。

メニューに並ぶ“クリームソーダ”の文字に心ひかれながら、結局無難にアイスコーヒーを頼む。

ほどなくして、店に70代くらいのおしゃれなご婦人が入ってきた。

「はぁ涼しい。ここは涼しいわ。天国みたい。1時間くらい歩いてきたんです。もぉー外は暑くてかないまへん」

「それはえらいことでしたなあ。どうぞゆっくり涼んでください」

元気なご婦人の声に、マスターが心地よい京都弁で応じる。

次ページひそかに聞き耳を立てていると…
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