「パスポート」の取得費用が1万6千円かかるなぜ 海外旅行が身近になる今、この手数料は適正か

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当時のレビューでは、大学教員の評価者から、LCCでの韓国旅行を検討したものの、航空券よりも高い手数料を前に断念した学生がいるとの事例も紹介された。さらに澤田氏は申請と受け取りで2度足を運ばなければならない手間と書類の多さも問題点として指摘した。

外務省は情報開示を行っており、最新のものが2019年7月8日に「旅券手数料収入と発給コストの比較について」として公表されている。

なお、子どもの手数料については、1995年度に子の併記制度(親の旅券に子の名を記載する制度)が廃止されたことに伴い、12歳未満の年少者の手数料を当時の5年有効旅券の発給手数料の半額(5000円)としたが、2005年度のIC旅券導入時にICシート実費分が加算され、現在は6000円となったと説明されている。

外務省の2018年の「旅券統計」によると、国内在住者のパスポート保有率は23.4%となり、国民の4人に1人がパスポートを持っている時代だ。その手数料の水準や取得の手間は国民にとって大きな問題だろう。LCCの登場によって航空運賃が格安になったがゆえに、パスポート手数料の高さが一段と目立つ結果となっている。航空業界ではコスト削減ができて、旅券発給業務ではできないでは国民は納得しないだろう。

それでも全体の収支は赤字になっている

それでも、最新の資料にある国の収支の比較・検証のところを見れば、2014年度~2016年度においては、赤字(歳出超過)だった。国の旅券手数料収入(歳入)と旅券発給にかかる経費および邦人保護関連経費(歳出)を決算ベースで比べてみると、パスポート1冊当たり平均1710円の差額(赤字)が生じているという。

外務省によれば、パスポート1冊当たりの経費については毎年、旅券発給件数の増減やシステム改修、機器の更新のタイミングなどにより若干の増減があるが、赤字の傾向は2017年度以降も変わらないようだ(資料は未発表)。

赤字解消のためには手数料を引き上げるか、コストを削減する必要があるが、秋の消費税増税のときも含めて、値上げの方針はないという(手数料自体は消費税の対象外だが、直接経費は増大する可能性がある)。

コストについては、現在、政府がデジタル・ガバメントの取り組みを進めており、パスポート発給業務においても電子申請の導入、手数料納付のキャッシュレス化などによる利便性の向上、事務の効率化・コスト削減を目指しているというが、値下げの予定も今のところない。手数料は旅券法で規定されており、手数料の変更には法改正が必要となるため簡単ではないといえる。

なお、パスポート発給は特別会計ではなく、一般会計の中で行われており、受益者負担という考え方に基づき手数料を定めているので、手数料のみを歳入として扱っている現状の赤字は国民全体で負担しているということである。

パスポート発給には、出入国管理、テロ防止、邦人の保護活動などおろそかにできない目的があり、一定の費用をパスポート取得者に求めることは理解できる。コストの開示と経費削減努力は引き続き求められるといえるだろう。

細川 幸一 日本女子大学名誉教授

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ほそかわ こういち / Koichi Hosokawa

専門は消費者政策、企業の社会的責任(CSR)。一橋大学博士(法学)。内閣府消費者委員会委員、埼玉県消費生活審議会会長代行、東京都消費生活対策審議会委員等を歴任。著書に『新版 大学生が知っておきたい 消費生活と法律』、『第2版 大学生が知っておきたい生活のなかの法律』(いずれも慶應義塾大学出版会)等がある。2021年に消費者保護活動の功績により内閣総理大臣表彰。歌舞伎を中心に観劇歴40年。自ら長唄三味線、沖縄三線をたしなむ。

 

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