スズキ「アルト」がパキスタンでバカ売れの理由 日本で人気の「ガラ軽」は世界で通用するのか

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シェアトップのスズキがパキスタンで生産を開始したのは1982年。インドと同様、アルトに800㏄エンジンを積んだ車両だった。その後も軽ベースでエンジンだけ大きくした車を生産してきた。こうした経緯から消費者は軽のサイズになじみがある。

パキスタン製の自動車は、産業保護政策の影響で多くのパキスタン製部品を使っている。このため「たとえ中古でも純日本製の車を評価する層がある」(北見氏)という。輸入中古車は排気量によって関税が異なる。中古車輸出を手がけるBE FORWARDによると、660cc(軽)と1000ccの中古車を輸入する場合、関税は660ccのほうが30万円ほど安くなるという。

パキスタンでの中古車輸入は原則禁止

整理すると、日本車への信頼感が根底にあり、軽のサイズにもなじみがあり、現地生産車よりも純日本製の中古車を好む消費者が一定程度存在する。さらに関税で軽の優遇が大きい。こうしたことからパキスタンで中古の軽が浸透していた。

実は、パキスタンでは中古車の輸入は原則禁止。特例として一定の条件を満たした在外パキスタン人が年1台輸入することが認められている。これまではバイヤーが輸入権を取りまとめて事業化していた。

しかし、2018年に誕生した新政権が自国産業保護を狙って輸入規制の運用を厳格化した。結果、こうしたこともあって2019年6月のパキスタンへの中古車輸出は178台、前年の6月から約2000台も減少している。

660ccのアルトの現地生産が始まったのは、こうした絶妙なタイミングだった。パキスタンのほかにも、スリランカやロシアなど中古の軽が輸出されている国がある。そういった国を足がかりに、“ガラ軽”が世界に羽ばたく日もそう遠くないのかもしれない。

中野 大樹 東洋経済 記者

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なかの たいじゅ / Taiju Nakano

大阪府出身。早稲田大学法学部卒。副専攻として同大学でジャーナリズムを修了。学生時代リユース業界専門新聞の「リサイクル通信」・地域メディアの「高田馬場新聞」で、リユース業界や地域の居酒屋を取材。無人島研究会に所属していた。趣味は飲み歩きと読書、アウトドア、離島。コンビニ業界を担当。

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