横浜、IR誘致で露呈した何とも厳しい「懐事情」 大都市ほど財政難に陥りやすい構造

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2019年度の市税収入の見込みは対前年比3.3%増の8395億円だが、大半が築40年を超える小中学校、市営住宅などの建て替えなどが控えており、今後は大型出費が予想される。2020年の、かなり無駄も見受けられる市役所移転で、数千人単位で減る関内の昼間人口が同地区の不動産価格下落に結びつくのではないか、という懸念もある。

観光が伸びるという期待もあるが、横浜市の観光客の数は2014年から5年で1.3倍に膨らんでいるものの、国全体の訪日外国人は前年比2割、年によっては同5割伸びていることを鑑みるとたいしたことはない。

これまでのやり方では立ちゆかなくなる

2020年完成を目指しパシフィコ横浜の隣で新たなMICE施設建設が進むが、2017年度の都市別国際会議開催状況で見ると横浜市は第6位と振るわない。神戸市、京都市、福岡市のように2008年以降大幅に増加している都市に比べて伸びはなく、これで海外から人が呼べるかは微妙だ。そもそも日本でのMICE開催はアジア内でも韓国、シンガポールに大きく水をあけられているなどなど、懸念事項は挙げだすときりがない。

2020年に完成する32階建ての横浜市新庁舎には批判の声も(筆者撮影)

財政だけでなく、広大な市域には高齢化や人口減少など「南北問題」もあり、問題は山積している。前を向くことは大事だが、「危機感が共有されないと次に行けないのではないか」と、10年間市議会議員を務め、現在は行政と民間をつなぐことを事業としているパブリックドッツ・アンド・カンパニーの伊藤大貴氏は警鐘を鳴らす。

歴史的な困難がありつつも横浜市は比較的無駄なく、賢明に経営されており、旧5大都市と比較しても1人当たりの市債残高や将来負担比率などの指標も悪くはない。だが、今後さらに高齢化、人口減少が進めば、これまでのやり方では立ちゆかなくなる危険があるというのだ。「大規模で財政事情のいい自治体ほど舵取り次第では大きな赤字を抱える可能性がある」と、日本総研の蜂屋勝弘氏は指摘する。

2019年6月に発表された「人口動態から探る地方財政の将来像」と題した論考は、人口動態の変化で地方財政がどのような影響を受けるかを試算している。具体的には人口動態の変化を総人口、若年人口、高齢人口の増加と減少に着目して4つの局面に分析。現在総人口、若年人口は減少している一方で、高齢人口が増加する局面にある大半の自治体が今後、高齢人口も減る局面に移行した場合の変化を試算した。

現在でもすでにすべてが減少している小規模自治体はわずかにあるが、2015年から2030年までを試算すると、こうした自治体は歳入だけでなく、歳出も減るので意外なことに財政事情は悪化していない。財政力指数0.6までの自治体では財源不足が拡大しない結果になっているのだ。

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