トラックはなぜ踏切へ?京急事故、直前の様子 「時速120kmでも停止できる距離」だったが…

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京急によると、事故のあった区間では通常、快特列車は最高時速120kmで走っており、事故直前の列車も同じスピードだったと考えられる。トラックが右折を試みてから約5分、踏切への進入から10数秒足らず。列車はトラックの後部荷台に突っ込み、約90m引きずって停止した。

立ち往生するトラックを列車は見つけることができなかったのだろうか。

京急の踏切事故防止対策は、機械で事前に障害物を検知して列車に知らせ、運転士が列車を停めるのが基本だ。踏切にはミリ波(電波)を照射して障害物を検知する3Dセンサーが設置されており、検知すると線路脇の発光信号機が激しく点滅して列車に異常を知らせる。

事故現場の踏切では、発光信号機は踏切の340m手前に設置されており、運転士はこの信号機をさらに260m手前から目視できるという。つまり、踏切から600m離れた地点で異常を確認できることになる。列車が時速120kmで走っていても、踏切に到達する前に止まることができる距離だ。

停まれなかった理由は?

しかし、結果的に列車は踏切の手前では止まれなかった。すると、1秒間に33m進むスピードの中、運転士は何らかの理由でブレーキを決断できなかったということになるが、この点は今後の調査が待たれる。

3Dセンサーによる検知とは別に、誰でも押すことができる踏切の非常ボタンも危険を知らせていた。カメラの映像ではトラックの運転手が車外に出た様子はないが、車両後方に人が映っていたため、衝突の危険性に周囲の人が気付いて操作したことになる。ただ、非常ボタンも3Dセンサーと同様に発光信号機を明滅させ、運転士の判断で列車を止める仕組みだ。

一方、列車の速度はATS(自動列車停止装置)が設置されているため、時速120km以上は出せない仕組みになっているという。速度超過になると、自動的にブレーキが作動する仕組みだ。

事故を受け、運輸安全委員会は鉄道事故調査官3人を現地に派遣した。また、国土交通省自動車局は、トラックの運転手が所属する千葉県香取市の運送会社に監査に入った。さらに、同省の事業用自動車事故調査委員会の調査官5人も調査に向かった。京急は7日始発の運行再開を目指して復旧を急いでいる。

中島 みなみ 記者

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なかじま みなみ / Minami Nakajima

1963年生まれ。愛知県出身。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者を経て独立。行政からみた規制や交通問題を中心に執筆。著書に『実録 衝撃DVD!交通事故の瞬間―生死をわける“一瞬”』など。

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