「薬酒バー」を三軒茶屋に開店した男の執念 妻の病気を治すため「中医学」にたどり着いた

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なお、こうした奥様の治療に関わるストーリーを含め、半生をつづった『僕の人生を変えた薬酒の話』という書籍が発刊されている。こちらでは、83種の薬酒のレシピも掲載されており、参照することで「二日酔い」「風邪予防」など、体の状態にあった薬酒を自分で作ることができる。

それにしても、薬酒といえば真っ先に思い浮かぶのが「養命酒」。「毎日朝晩に1杯ずつ」というイメージがあり、大人空間のバーとはそぐわない。それでも、桑江氏はバーという形態にこだわった。

ショウガや秋ウコンなど6種類の薬草を配合した薬酒ビール「MUGIZEN」(1200円)。ベルギービールのような味わいだ(筆者撮影)

「生活習慣病などの病気の原因はいろいろありますが、大きなものが体の冷えとストレスだと考えています。『バーテンダーは医師であり、精神科医であり、心理学者である』という、ある有名なバーテンダーの言葉があるのですが、ストレスを癒やす場として、やはりバーが最適だと思いました」(桑江氏)

アルコールは肝臓に負担をかけるため、飲み過ぎはもちろんよくないが、酒にはそもそも健康によい効能があるそうだ。医の旧字体に「酒」を意味する「西」が入っていることからもわかるように、治療に酒を用いていた歴史もある。何より、体によい成分を、ストレスを解消しながら、おいしく楽しく取り入れられるのが、薬酒のよいところだという。

また、中医学の考えをルーツとする薬酒において大切なのが、素材との相性だという。バーではいろいろな薬酒を試して、自分と相性のよい素材を探すことができる。

目的・効能別に約100種類の薬種メニュー

薬酒Barで扱う素材・食材は、アジア・アフリカ・ヨーロッパ・南米の4大陸から集められたもの。アルコールにも「漢方酒」「複合酒」「果実酒」「強壮酒」の4つの種類があり、素材とアルコールの組み合わせでほぼ無限にメニューを考え出すことができるそうだ。

また薬草というとまずい、苦いという印象がある。実際、口に合いにくい味のものも多い。薬酒ではそれを、炭酸やジンジャエール、果実などで和らげて、おいしく飲むことができる。

メニューはエネルギー補給やアンチエイジング、風邪予防など、目的・効能別に構成。店によっては約100種類の薬酒メニューを並べているところもある。

薬酒ワイン「LIBIDO」(グラス800円)。外国産のブレンドワインにクコの実、蓮の実、ローズペタル、マカなど6種類の薬草を配合したもの。まろやかで飲みやすい(筆者撮影)

また、薬酒Barで開発したオリジナル商品である、薬酒ビール、薬酒ワイン、ハーブコーヒーなども注文できる。価格は店やメニューによって異なるが、カクテルならだいたい1杯800〜1000円ぐらいだ。

「ワインは『リビドー(本能)』という商品名なのですが、女性の強壮の効能があるハーブを配合しています。『肉食系』になるといいますか(笑)」(桑江氏)

男性の強壮系によいといわれる薬草は多いが、女性への効果があるものは珍しい。桑江氏によると、ホルモンバランスを調整する生薬も配合されているそうだ。

さて、5坪ほどの小さなバーから出発した薬膳Bar。開店当時はまったくと言っていいほどはやらなかった。桑江氏自身「“薬”とついている時点で、飲食店としてはNG」と評価している。

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