中国鉄道メーカー、独企業買収で狙う欧州市場 老舗メーカーの機関車部門を取得し拠点に

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一方、同年のイノトランスではCRRCが初の実車展示として、ハンブルクのSバーン(郊外電車)に納入する入換用ハイブリッドディーゼル機関車を持ち込み、注目を集めた。同社はチェコのレオ・エクスプレスから電車を受注するなど、欧州での展開を進めつつある。

中国の巨人、CRRCが欧州メーカーを買収することについて、世間はどんな反応を示しているのだろうか。

2018年のイノトランスに展示された、CRRC製のドイツ鉄道向け入換用バッテリー機関車。中国で製造されているが、今後は欧州で製造することも考えられる(筆者撮影)

実際のところ、日本だけでなく世界の国々では中国企業の海外進出について、今も少々懐疑的に見る人は多い。今回のフォスローの一件についても、聞こえてくる声の半数は、残念もしくは心配というものだ。

その理由の多くは、CRRCという企業に対してというより、中国という国そのものに対する疑念、すなわち国際的なルールや基準をきちんと守っているのかといった点や、中国人の生活上の作法などといった点だ。

また、世界各国の技術を取り入れて完成した高速鉄道も、疑念を払拭できない理由の1つと言える。中国の高速鉄道は、各国メーカーからの「技術供与」という形を採っており、それ自体は一般的に認められるプロセスである。だが、その後中国は、これらの技術を元にオリジナル車両を製造し独自技術で製造した、などと喧伝した。

もちろん、ただの寄せ集めではなく、短期間に独自の力で大きな進化を遂げてきたことは間違いない。ただ、「われわれは独自の力で他国を追い抜き、今や世界一の実力を誇る」などと表明されれば、協力した側は、誰の力でここまで成長できたのかと一言物申したくなる。こうした点が、中国に少なからずマイナスの印象を抱かせていることは否めない。

欧州で存在感を示せるか

だが、それだけで中国や中国企業に対し、安易に否定的な見方をするのはナンセンスである。日本も世界中から技術を取り入れ、そこから血のにじむような努力で独自の発展を遂げ、自動車産業においては世界最高の評価を得るまでになった。鉄道産業も、ついに鉄道発祥の国であるイギリスへ、日立製作所が鉄道車両を「逆輸出」するまでに至った。

中国は大国となったものの、まだまだ発展途上である分野も多い。だが経済においてはすでに日本を追い越したように、これから中国はさまざまな分野でさらに成長を遂げるのは間違いない。技術的・文化的に成長できるかが、CRRCなど中国メーカーの将来を握る鍵となる。

多くの有力メーカーがひしめくヨーロッパ。はたしてCRRCは、この市場で存在感を示し、前述のイメージを払拭することができるのか。今後しばらくは、同社の動きから目を離せない。

橋爪 智之 欧州鉄道フォトライター

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はしづめ ともゆき / Tomoyuki Hashizume

1973年東京都生まれ。日本旅行作家協会 (JTWO)会員。主な寄稿先はダイヤモンド・ビッグ社、鉄道ジャーナル社(連載中)など。現在はチェコ共和国プラハ在住。

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