東京電力はなぜ、賠償金を「払い渋る」のか 突然の賠償金返還請求、膨大な資料要求も

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避難指示区域外の商工業者の営業損害について、東電は2015年8月に新たな賠償方針を発表している。それによれば、同年8月以降の損害は相当因果関係が認められた年間逸失利益の2倍(2年分)を一括して支払うとした(いわゆる「2倍賠償」)。そして、2倍賠償を支払った後も、引き続き損害が発生していることが確認できた場合には支払いを続ける方針を示している。

今年3月8日の参議院予算委員会で、参考人として出席した東電の小早川智明社長は、岩渕友・参議院議員(共産党)の質問に次のように答えている。

「2倍賠償額をお支払いしたうえで、やむを得ない特段の事情により事故と相当因果関係が認められる損害が一括賠償額を超過した場合については、個別に事情をうかがったうえで適切に対応させていただいております」

小早川氏は被害がある限り、賠償を続ける考えを示した。

追加賠償の実績は900件中14件にとどまる

とはいえ、追加賠償の実現は容易なことではない。岩渕議員への東電の回答によれば、商工業者が2倍賠償を受け取った後の追加賠償実績について、約900件の請求に対して合意はわずか14件(7月末時点)にとどまる。

「事業者の皆さんから怒りの声が上がっているんですよ」

前出の予算委員会で岩渕議員は、避難指示が解除された地区の生鮮食品店が賠償を打ち切られた事例を挙げて、東電の姿勢を厳しく批判した。

岩渕議員が例に挙げた福島県浪江町では、2017年3月末で避難指示が解除されたものの、住民の居住率は今年3月時点でわずか6%にとどまる。こうした地域では多くの企業が再建の手がかりをつかめずにいる。

「東電からは、避難先での営業再開、ほかの事業に転換するなど、損害を軽減することができることを理由に損害が継続しているとは認められない、こういう回答が2018年12月にあった。(浪江町の事業者の)Aさんは、以前のように商売できるというんだったら、どうやったらできるのか教えてほしいと怒っている」

岩渕議員はこう言って小早川社長に詰め寄った。

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