債務超過の曙ブレーキ、銀行との溝は埋まるか 経営危機の引き金となったアメリカでの失敗

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失注の影響が本格化するのはこれからだ。利益の改善には大規模なリストラが不可避だが、現状の財務体質ではその費用がまかなえない。資本増強や債権放棄の必要性は金融機関も認めざるをえない。それでも曙の要請に、金融機関は厳しい姿勢を崩していない。

「提案されているリストラ計画案で再建が望めるのか、疑わしく見ている」(メガバンク関係者)、「1~2年で黒字を約束できるような再建計画でなければ、債権放棄を認めるのは難しい」(地銀関係者)。現状のリストラ案では業績回復が見込めず、残った債権の回収ができるのか、不安があるという見方だ。

また、すべての金融機関に対し、一律5割の債権放棄が要請されていることに対し、下位行を中心に主力行の責任を問う声もある。もちろん、金融機関にとって債権放棄が歓迎できないことではあるが、それ以上に、危機的な事態を招いた現経営陣への不信感も根底にあるようだ。

事態を救えなかった経営陣の責任

社長在任29年になる信元会長兼社長は、日本自動車部品工業会の会長と、トヨタ系部品メーカーの協力会である協豊会の会長を務めた業界の重鎮である。業績が悪化する中で有効な手を打てず、明確な責任を取ってこなかった。

【2019年8月20日19時注記】初出時の記事における協豊会会長に関する記述を上記のように修正いたします。

曙ブレーキ工業の信元久隆会長兼社長(編集部撮影)

事業再生ADRがまとまった暁には、信元会長を含む代表取締役は辞任する方向だが、別のメガバンク関係者は「大して自助努力もしてこなかった」とけんもほろろだ。

今年2月にアメリカ事業の再建役として斉藤剛執行役員が現地子会社社長として赴任した。しかし斉藤氏は、2013年に同じポジションに就いていたが、アメリカの生産混乱を収めることができなかった。社内からでさえ「一度失敗している人を送るしか、選択肢はないのか」と声が上がる。

JISへの第三者割当増資に必要な臨時株主総会は9月27日。曙は9月18日までに金融機関を説得することができるのか。

森川 郁子 東洋経済 記者

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もりかわ いくこ / Ikuko Morikawa

自動車・部品メーカー担当。慶応義塾大学法学部在学中、メキシコ国立自治大学に留学。2017年、東洋経済新報社入社。趣味はドライブと都内の芝生探し、休日は鈍行列車の旅に出ている。

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