深夜ドラマがNetflixと手を組む納得事情 振り込め詐欺の現実をドラマ化した「スカム」

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加えて、Netflix独占配信によって通常の地上波深夜ドラマよりも予算規模も拡大しています。具体的な制作費は明らかにされていませんが、聞くところによると、通常の深夜ドラマ枠よりもかなり大きな金額をかけているそうです。

予算をかけた分、約30分尺のドラマの中で使われるロケーションが次々と移り変わり、スピード感ある展開を味わうことができます。

予算規模拡大によりアクションシーンも見どころ(写真:©「スカム」製作委員会・MBS)

ロケーションが多いと撮影も移動時間も増えるため、予算カットを余儀なくされる場合は場面展開が抑えられてしまいがち。そんな心配をよそに「スカム」はぜいたくに絵変わりさせています。恐怖心や高揚感をあおらせるにはうってつけ。カーチェイスなど犯罪ドラマに求められるアクションシーンもあります。

また撮影機材も映画で使われるものを使用し、仕上げ作業もカラーグレーディングと言われる色調加工に時間をかけ、作品そのものもクオリティーを上げています。

そして、ドラマの重要な要素である役者もそろえています。主演は10代を中心に人気を集める杉野遥亮を起用、相棒役に前野朋哉、ヒロイン役に山本舞香をキャスティングし、西田尚美、杉本哲太、大谷亮平といった名優も登場しています。

世代間格差に不安を抱える若いスタッフが中心

作品そのものの評価とは別の視点になりますが、「スカム」をオススメする理由に、若いクリエーターが制作の核にいることも含まれます。原プロデューサーは1985年生まれの34歳、小林勇貴監督は1990年生まれの28歳です。

制作費の圧縮によって現場は疲弊し、低賃金労働に拍車がかかり、若いクリエーターが激減しているなか、才能を潰してしまわないためにも、こうした作品を生み出すことに価値があると思うからです。

このドラマを見て危機感をより感じるのは若者たちです。「僕らの世代は、頑張っても給料はそんなに上がらないし、日本の経済全体も下降に向かっているように見えています。上の世代が詰まっている現代の日本社会では、若い世代にはチャンスが与えられていない感覚すらあります」と話す原プロデューサーは世代間格差に不安を抱えている1人。

だからこそ説得力が増し、20~30代の同年代に共感を呼ぶ作品を作ることができるのだと思います。メインターゲットから外れている場合でも、ドラマを通じて問題意識を深めることはできるでしょう。筆者も改めて気づかされた口です。

ポスターも海外のNetflixユーザーを意識したデザインに(写真:©「スカム」製作委員会・MBS)

最後に明るい話題を1つ。今秋以降、Netflixで「スカム」の世界配信が決定しています。ビジュアルポスターは出演者がずらりと並ぶ日本流とは変え、海外ドラマのトレンドに習って、作品のイメージを一発で伝えることができるものにこだわったそうです。

ライバルの数が日本以上に果てしない世界市場で、どこまで支持を集めるのか未知数ではありますが、日本のドラマ界の将来に得るものは必ずあるはずです。

長谷川 朋子 コラムニスト

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はせがわ ともこ / Tomoko Hasegawa

メディア/テレビ業界ジャーナリスト。国内外のドラマ、バラエティ、ドキュメンタリー番組制作事情をテーマに、テレビビジネスの仕組みについて独自の視点で解説した執筆記事多数。最も得意とする分野は番組コンテンツの海外流通ビジネス。フランス・カンヌで開催される世界最大規模の映像コンテンツ見本市MIP現地取材を約10年にわたって重ね、日本人ジャーナリストとしてはこの分野におけるオーソリティとして活動。業界で権威ある「ATP賞テレビグランプリ」の「総務大臣賞」の審査員や、業界セミナー講師、札幌市による行政支援プロジェクトのファシリテーターなども務める。著書は「Netflix戦略と流儀」(中公新書ラクレ)。

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