為替操作国認定でチャイナショック再来の衝撃 米中対立激化で現実味を帯びる通貨安戦争

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問題はこうした元相場に対する中国政府の複雑な立場をトランプ政権が正しく理解していないことだ。上述してきたとおり、トランプ政権の無理筋の要求を突きつけながら追加関税を打ち込むというアプローチが続くかぎり、中国はある程度の元安を容認せざるを得ない。

ついに為替操作国認定が下された以上、元安を理由にした追加関税は今後も警戒すべきである。その都度、さらなる元安でショックを緩和するような政策調整を取れば、金融市場の不安定化は止まらない。しかし、その可能性は低くないのが悩ましいところだ。巷間言われるように、両国対立の源泉が次世代技術やこれに伴う軍事上の覇権争いにあるなら、経済合理性を超えた次元で摩擦の激化が続くことも否めない。

結果、「追加関税⇔元安」という負の循環において元相場が新安値を断続的に更新し、そのたびにリスク回避ムードが強まって、円高も同時に進むことが予想される。すでに米国の経済・金融情勢が弱気に振れることを背景にドル全面安が進み、その結果として円高が進んでいる現状を踏まえれば、円高リスクを一段と高める材料が中国側から提示されたと整理できる。

基本は「アメリカの金利が下がる」

米中貿易戦争は重要だが所詮は政治的要素が強い水物であって、本来、相場見通しの骨格に据えるべきものではない。少なくともすべての追加関税が撤廃されるなどして完全解決でもしない限り、この貿易戦争いかんによってシナリオの方向そのものが変わることはないというのが筆者の基本認識である。政治的な判断が交錯しやすい大統領選挙前はブレに要注意である。

あくまで今の金融市場は「アメリカの金利が下がる」が取引の大前提にある。これは当分変わらないものだろう。円相場の現状と展望を考察する上での焦点は「円高がどこまで進むのか」であって、円安に進む要素は見通せる将来においてほとんど期待できそうにないというのが引き続き筆者の相場観である。

※本記事は個人的見解であり、筆者の所属組織とは無関係です。

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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