かんぽ生命で放置されてきた営業現場の暴走 トップが問題を把握した時期が遅すぎる
つまり「2重払い」や「無保険状態」は、局員の「数字」を高く保ち、「手当」が減らないよう、現場の局員が編み出した手法だった。解約や契約の時期を意図的にずらした結果、保険料を2重に払う期間や無保険の期間が発生したのだ。
悪質営業は周知の事実
かんぽ生命の植平社長と日本郵便の横山社長は7月10日の会見で、「全体の問題を把握したのは直近」と繰り返した。はたしてそれは本当か。少なくとも営業現場の暴走を本部は以前から認識していた。そのことは「適正募集ニュース」から明らかだ(冒頭写真)。同文書は日本郵便の金融業務部・募集管理統括室が毎月発行している。全国の支社に同時発信、保険販売に携わる全社員が閲覧・押印している書類である。
18年4月発行の同ニュースは「不当な乗換募集の禁止」と題して、不適正な営業事例として以下の2つを紹介している。
「契約者に解約意思がないにもかかわらず、既契約を解約させ、契約者に不利益事項の説明を行わないまま新規契約を受理した」
「乗り換え判定を逃れる目的でお客様に『既契約を解約するのなら、新規契約を申し込んだ6カ月後にしましょう』と説明した」
募集管理統括室は2つの事例を取り上げたうえで、「募集人の都合で解約を勧め、新規募集をしてはならない」と戒めている。同様の営業が現場で行われていることを認識していたからこそ、こうした通知を出したと考えるのが自然だ。 同年9月発行の「適正募集ニュース」は、不適切な営業事例を図示したうえで「乗り換え判定期間を意図的に外す募集をしてはならない」とし、図表には「保険料の二重払いが発生!」と書いてある。
契約者に一度も会わない「不対面契約」も問題
要は本部が何度も警告せざるをえないほど、不利益契約への乗り換えや保険料の2重払いなどの問題が全国で多発していた。全国局員が知っていて、植平社長や横山社長が知らないとは考えづらい。日本郵便やかんぽ生命は8月末まで顧客からの苦情対応を最優先し、約2900万件の全契約について、対面や電話で不適切な営業がなかったかを確認する予定だ。ノルマを引き下げ、少なくとも8月末まで積極的な保険勧誘を原則行わない。
となると、局員にとっては、過去分の解約が増えて「手当」の返還を求められる一方、新たな「手当」が入らない。件数が多いので8月末までに苦情対応が終わる可能性は低いほか、不信感の高まりで新たな契約獲得は困難になる。現役局員は「手当の返還で基本給が削られ、月収10万円前後の局員が激増するだろう。それでは生活が立ちゆかないので、自粛期間中に隠れて営業したり、新手法を編み出したりするのでは」と表情を曇らせる。
悪質な営業は今回明るみに出たものだけではない。今年2月発行の「適正募集ニュース」は、契約者や被保険者に一度も会わない「不対面契約」があったことを警告している。「数字」や「手当」といった仕組みが従来のままでは、悪質な営業はなくならない。
7月31日には日本郵政の長門社長、日本郵便の横山社長、かんぽ生命の植平社長の会見が予定されている。10年前に爆発的に増えたとされ、少なくとも昨年段階で全国の郵便局員が知っていた問題営業の実態。同月10日の会見で「全体の問題を把握したのは直近」と言っていた横山社長や植平社長は、今度の会見でも同じ主張を続けるのだろうか。
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