政策を間違えなければ大恐慌にはならない--ケネス・ロゴフ ハーバード大学教授

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かつての楽観論のように悲観論者も悲観しすぎ

ドイツのメルケル首相をはじめ、多くの指導者が積極的な景気刺激策がもたらす長期的な影響について懸念を抱いているのは理解できる。そうした懸念には根拠がある。経済における政府の役割が大きくなっている状況を考えれば、その懸念も当然である。しかし、景気政策による政府拡大の影響は、たとえば戦時中のように、一時的なものである。「行動を起こさない」というのは、本当の代替的な政策になりえないだろう。

50年代以前、1年間で生産高が15%~20%落ち込むことは普通であった(それは国民所得会計が未熟であったからだ)。多くの経済学者が、私たちは当時のように景気変動に耐えるべきであると主張している。リセッションは重要な浄化効果を持ち、痛みを伴うリストラを実行するうえで欠かせない。

しかし、現在の先進国の社会的、経済的、政治的システムは、短期間に産出量が15%~20%も減少する事態に対処できない。そうなると大型の景気刺激策や政府の介入は避けられない。景気が悪化するのと同じスピードで国が経済を救い出すことを人々は期待しているのである。景気刺激策やリストラが効果を発揮すれば、リセッションが全面的な恐慌に発展することはないだろう。

米国は国際金融危機の爆心地であるが、自信喪失で苦しんでいる唯一の国ではない。英国、アイルランド、スペインもそれぞれ同じ規模の金融危機に直面している。輸入エネルギーに依存している国やロシア、ベネズエラのように国家統治のあり方が問われている国では、さらに厳しい経済の落ち込みを経験している。中国は成長率が半減する事態に直面することも予想される。欧州や日本は米国のように複雑な金融混乱に陥ってはいないが、それでもリセッションの泥沼に陥っている。今や世界経済は苦境に立っているのである。

しかし、楽観論者がブームの最中にあまりにも楽天的であったのと同じように、超悲観論者もおそらく過剰に悲観的すぎ、今にも大恐慌がやってくると予想している。確かに09年は厳しい年になるだろう。しかし、大規模な突発的な事態が起こらなければ、10年は米国、欧州、日本で緩やかな経済成長が復活し、発展途上国の大半が旺盛な成長を遂げる絶好の機会を手に入れるだろう。突発的な事態が発生したり、政策で大きな失敗を犯さないかぎり、新たな大恐慌が起こることはないのだ。

ケネス・ロゴフ
1953年生まれ。80年マサチューセッツ工科大学で経済学博士号を取得。99年よりハーバード大学経済学部教授。国際金融分野の権威。2001~03年までIMFの経済担当顧問兼調査局長を務めた。チェスの天才としても名を馳せる。

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