ファブリーズ「瞬間お洗濯」広告が消えた裏事情 「適格消費者団体」の活動が与えた影響とは

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本件は前者の優良誤認に該当する可能性があるものだが、直接に効果・効能等を表示するものではなく、「洗濯」という言葉を使用しているところに判断の難しさがあったのではと予想する。

洗濯といえば、汚れを落とす行為を消費者は想定するであろうから、本商品を使用することを「お洗濯」と表現することが、本商品を使用するだけで、汚れが落ちると消費者が判断するかが問題である。

この点、ファブリーズのテレビCMでは「瞬間お洗濯」と音声で流れるのに対して、「消臭する工程を洗濯と比較。汚れを落とすわけではありません」(こうした表示を打消し表示という)の文字が表示されており、ネット広告の文字情報では「お洗濯」に比して小さい文字で打消し表示が書いてあるために、これをもって適切な表示と言うことができるかが、話し合われたのであろう。

クリーニングにかかわる業界団体、機械・資材団体などによって組織されるクリーンライフ協会が調査会社マクロミルに依頼して、消費者の調査(サンプル:全国に居住する20~60代の男女1550人、男女同数)を行っている。

そこでは、過半数がスプレーすると「汗などの見えない汚れが落ちると思う」と答え、汚れが落ちると思う最大の理由は「CMや広告でみたから」となっている。また、スプレーしている衣類をクリーニング店に出す回数が減ったのは約3割だという。

日本女子大学家政学部被服学科の榎本一郎教授(テキスタイル整理学)は「スプレー式消臭剤を使うことによって、洗濯の機会が減ると汗などの汚れにより衣類に黄変が起こることがあり、汚れが落ちにくくなる場合もある」とも話す。

最終的にP&Gが表示を中止することを表明

最終的に、本件は当該表示の景表法上の違法性判断を避け、P&Gが自ら、該当する製品表示の使用を中止することで決着した形だ。もともと景表法は行政法規であり、その施行主体は消費者庁であり、裁判を経ずに行政措置という形で不当表示の排除命令ができる。

適格消費者団体の場合は民事裁判に訴えて主張を確定させる必要があるが、その前段階の申入れや問い合わせも、その権限を背景として行われるものであるから企業にとっても訴訟リスクを前に真摯な対応が必要となるであろう。

不当表示は消費者の適切な購買行動を歪め、損害を被らせるが、まっとうな表示を行っている企業も不当に顧客を奪われるという意味で被害者である。健全な消費者市場を確保する意味で、景表法の消費者庁による法執行に加え、適格消費者団体の活動が注目される。

細川 幸一 日本女子大学教授

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ほそかわ こういち / Koichi Hosokawa

専門は消費者政策、企業の社会的責任(CSR)。一橋大学博士(法学)。内閣府消費者委員会委員、埼玉県消費生活審議会会長代行、東京都消費生活対策審議会委員等を歴任。著書に『新版 大学生が知っておきたい 消費生活と法律』、『第2版 大学生が知っておきたい生活のなかの法律』(いずれも慶應義塾大学出版会)等がある。2021年に消費者保護活動の功績により内閣総理大臣表彰。歌舞伎を中心に観劇歴40年。自ら長唄三味線、沖縄三線をたしなむ。

 

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