これがモスバーガーの生きる道! /思わず行きたくなる遊園地 /バイオタイプP 《それゆけ!カナモリさん》 金森努・金森マーケティング事務所社長が、街で拾ったニュースを独自の視点から語り続けるコラム

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■1月9日 これがモスバーガーの生きる道!

 「モス史上最高!国産肉100%のうまさ」を豪語する、モスバーガーの「とびきりハンバーグサンド」が、暮れも押し迫った昨年12月27日に発売された。確かに美味い。だが、その味以上に、モスフードサービスが自社の戦略ポジションを活かした「巧い」商品戦略であることがうかがえる。

「ハンバーガーと言えば、やっぱりモスだよねぇ」とかつては固く信じていた筆者であるが、正直ここ数年、足が遠のいていた。「できたて」にこだわり、ファストフードではなく、むしろスローフードを目指すポリシー。二等立地にも足を運ばせるファンづくり。そんな本来の魅力が見えなくなった感じがしていたからだ。

高級路線を狙った「緑モス」への転換において、ファンとしてはどうも中途半端に思えるラインナップが続き、さらに高級バーガーとして投入された「匠味」も原材料高騰のあおりを受けてか、ネット上でも多くのファンが指摘しているように、味の低下が顕著だった。さらに低迷脱却の次の一手として、桜田厚社長が決算会見の席上で、「200円前後の低価格メニューの開発を進めている」と発表したとの報道を見て、筆者は、「モスは終わった……」とくらーい気持ちになった。

だが、モスは終わってはいなかった(涙)!「とびきりハンバーグサンド」。その戦略が実に見事なのだ。

バンズに挟まれているのはパティと刻みキャベツだけ。ソースは王道のトマトデミソース。かなり直球勝負の気合いが感じられる。「バンズからお肉がはみ出している」とのコピーに偽りはなく、こんがり焦げて香ばしい香りを放つパティがしっかりその存在を主張している。90グラムとなかなかのボリュームだ。

もっと重要なのが、「ハンバーグに使用しているお肉は100%国産です」と明記していること。昨今の食の不安を払拭してくれるのがなんともうれしい。

それでいて390円という、かつての「匠味」のような高価格を打ち出していないのも良心的。肉は国産の牛・豚合い挽き。豚肉独特の風味がかなり感じられるので、豚の配合率は高そうだが、筆者の好みには合っている。「合い挽き」の選択は価格にも大きく反映されていると思われる。

同社の Webサイトにはこう記されている。本当においしいハンバーグを、手軽に食べてもらいたい。そんな気持ちでモスがたどり着いたのは、ハンバーグに使用するお肉を100%国産にする、というシンプルな答えでした。おいしいものに恵まれた国、日本に生まれてよかった!と思えるようなハンバーグ。

マクドナルドが挑発的に「ニッポンのハンバーガーよ、もう遊びは終わりだ」と、いかにも「本場米国から黒船上陸」といった演出をしたのに対し、「日本人の好みにあったハンバーガーを提供する」というモスバーガーの創業の理念に立ち返ったポジショニング。そして、「100%国産肉」という要素は、マクドナルドだけでなく、ほかの多くのハンバーガーに対しても大きな差別化要因として機能する。

経営学の最も有名なフレームワークの一つに、企業の競争上の地位を「リーダー」「フォロワー」「ニッチャー」「チャレンジャー」の四つに分類するやり方がある。

業界の「リーダー」にも挑戦できる「チャレンジャー」と、ひたすら存続のみを目的として生き残りを図る「フォロアー」のポジションにおける決定的な違いは何かといえば、「差別化」ができるかどうかにかかっている。コーラ業界におけるリーダーであるコカ・コーラに対して、ペプシコーラがレモンフレーバーを効かせたり、変わり種コーラを上市したりするのもチャレンジャーとしての差別化策である。

モスバーガーの属する「ハンバーガーショップ業界」においては、モスバーガーはもはやフォロワーのポジションにあった。後発のフレッシュネスバーガーに、その「作りたてにこだわる」という点など、ユニークさを模倣され、業界における差別化ポイントを失ってしまっていたからだ。

差別化には二つの種類がある。一つはリーダー企業が同じような施策で追いかけてくる「同質化」を覚悟で、先んじて行うことを価値として展開する施策だ。コーラの例でいえば、レモンフレーバーは同質化されることを覚悟で行った施策であったと解釈できるだろう。もう一つが、リーダーが決してできないことを行う差別化である。昨年発売されたペプシの青いコーラ、「ブルーハワイ」など、コカ・コーラは決して手を出さないはずだ。コーラらしからぬコーラに手を出すことは、リーダーにはリスクが大きすぎる。

モスバーガーの打ち出した「合い挽きの100%国産肉」。リーダーであるマクドナルドは絶対に同質化戦略はかけてこないだろう。なぜなら、マクドナルドが掲げてきた「100%ビーフ」というポリシーに反してしまうからだ。マクドナルドにも細長いバンズにポークパティをはさんだ「マックリブ」や、100円マックの「マックポーク」が存在するが、あくまでメインストリームではない。まして、「合い挽き」をうまさの最上級と位置づけることはあり得ないだろう。

リーダーが訴求してきたことと別の方向性を打ち出して、手出しができないようにすることを「理論の自縛化」という。今までビールの「コクや旨み」を訴求してきたキリンビールが、アサヒスーパードライの「ビールはキレ」という新たな価値観を打ち出されても、それに追随して同質化できなかったのが過去の例としてあげられる。

調達力において、コストリーダーであるマクドナルドに圧倒的に劣後するモスバーガーは、価格的な追随などすべきではない。徹底した差別化戦略をとるのが正解だ。「200円前後の低価格メニュー」ではなく、極めて戦略的に計算された差別化のポジションを実現した、今回の「とびきりハンバーグサンド」の登場。かつてのファンとして極めてうれしい。

また、モスバーガーに通ってしまいそうだ。ダイエット中なのに……。

 

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