住商が「フィリピンバナナ」から撤退したわけ 労組が労働条件改善求めてスト、殺傷事件も

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フィリピンの最高裁が雇用関係を認定したことについて、「スミフルの委託先企業の一部社員とスミフルの間に雇用関係があるとされたのは事実であり、真摯に受け止めている」とコメントするものの、「現地経営陣は適切に対応している」というのが住商側の説明だ。

現在、フィリピンの労働雇用省が、ナマスファとスミフルの間の調停を進めている。2019年3月25日には同省が両者代表を招いて話し合いを呼びかけたが、スミフル側はこの会議を欠席している。住商の説明通り、「適切に対応している」のならば、会議に出席すべきではないのだろうか。住商は「これまでの当局が関与した調査・仲裁の結果等を総合的に判断し、スミフルは適切に対応している」と回答するのみだ。

仲裁会議にスミフルは欠席、食い違う労使の主張

ただ、ナマスファを支援しているNPO「アジア太平洋資料センター」(PARC)の田中滋事務局長によれば、「(スミフルは)代替として提示してきた日程の仲裁会議も欠席している」という。また、田中氏によると、フィリピン最高裁の認定を踏まえ、住商は「該当者全員に正社員化のオファーを出したが、誰も承諾しなかった」と説明したというが、このオファーは確認できていないという。

住商は2019年度の上半期中をメドに、スミフルの全株式を合弁相手であるソーントンへ売却する。売却後も住商はスミフル・バナナの取り扱いを続ける方針だ。しかし、資本関係がなくとも、取引先の労働者の人権状況を把握し、不十分であれば改善に向けて何らかの働きかけをしていくというのが世界的な流れだ。

住商は2009年に「サプライチェーンCSR(企業の社会的責任)行動指針」を掲げ、「人権を尊重し、人権侵害に加担しない」「労使間の円滑な協議を図るため、従業員の団結権を尊重する」などと明記。住商の取引先などにも指針への賛同、実践を求めているという。情報を適時適切に開示するとの文言もある。スミフルの件では、まさにこの行動指針の実践が求められる。それができないのであれば、名ばかりの指針と批判されても仕方ないだろう。

スミフル・バナナをめぐる問題は住商にとどまらない。今年4月、イオングループはNGOを通じてナマスファの訴えを把握した。同社グループは取引行動規範を定めており、供給元での人権侵害などが起きていないかを確認している。これまではスミフル・ジャパンとやりとりをしていたが、訴えを踏まえてスミフル・フィリピンに問い合わせたり、現地に人を派遣して人権侵害の有無を確認している。ただ、スミフル商品の販売停止などは検討しておらず、情報を収集している段階だ。

スミフルの労働問題は、日本を代表する企業の人権問題への姿勢の一端を浮き彫りにしている。

大塚 隆史 東洋経済 記者

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おおつか たかふみ / Takafumi Otsuka

広島出身。エネルギー系業界紙で九州の食と酒を堪能後、2018年1月に東洋経済新報社入社。石油企業や商社、外食業界などを担当。現在は会社四季報オンライン編集部に所属。エネルギー、「ビジネスと人権」の取材は継続して行っている。好きなお酒は田中六五、鍋島。

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