若い世代の4割は「年金繰り下げ増額」を選ぶ 「老後2000万円不足問題」でアンケート実施

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希望受給開始年齢の次に聞いたのは、「将来繰り下げを選択するとき、何が障害となりそうか」(複数回答)だ。最も多い答えは「職が確保できるか」で48.3%、2番目は「健康に自信がない」の36.4%だった。繰り下げ中に収入を確保する際には、企業年金や退職金を使いながらフルタイムでない働き方もありうる。それでも「納得できる賃金の職が確保できるか」と答えた人は、30.6%と多かった(3番目に多い答え)。

一方で繰り下げ受給の留意点として、配偶者などの「加給年金」が受け取れなくなること(厚生年金の繰り下げの場合)、「在職老齢年金制度」での年金支給停止部分は繰り下げ増額の対象外になることが指摘されている。ただ、こうした制度のわかりにくさもあってか、アンケートでは、これらを障害と考える人は10%以下と低かった。

※加給年金 厚生年金受給時に65歳未満の扶養配偶者や18歳未満の子どもがいると受給できるもの。給付額は、配偶者で年約39万円、子ども(1人目、2人目)は各年約22万円。
※在職老齢年金制度 65歳以上の就業では、賃金と年金の合計額が月47万円を超えると、超過部分の半分の年金が支給停止となる。繰り下げ中においても、その支給停止部分は増額の対象外となる。

税や社会保険料の増加はあまり懸念されていない

また、繰り下げ増額による収入増により税や社会保険料が増えることを問題視する向きが一部のメディアにあるが、それを障害と答える人は14.0%だった。(繰り下げ後の手取額の実態については、『週刊東洋経済』7月8日発売号の特集「年金大激震 変わる老後設計」で詳述した)

今回のアンケートは、制度を知れば、自分の嗜好に沿って高齢期の生き方や働き方を見直し、年金受給のあり方について工夫する人たちが増えることを示唆する。高齢化によって年金の給付水準は一定の調整が実施される見通しではあるが、将来世代は、3歳程度の繰り下げ増額によってそれを上回る給付水準を確保できることも政府の試算でわかっている。

高齢化とともに延びる健康寿命を活用して、高齢期にどんなライフスタイルを描くのか。一人ひとりが問われているのは、年金受給だけでなく、生き方そのものの問題である。

野村 明弘 東洋経済 解説部コラムニスト

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のむら あきひろ / Akihiro Nomura

編集局解説部長。日本経済や財政・年金・社会保障、金融政策を中心に担当。業界担当記者としては、通信・ITや自動車、金融などの担当を歴任。経済学や道徳哲学の勉強が好きで、イギリスのケンブリッジ経済学派を中心に古典を読みあさってきた。『週刊東洋経済』編集部時代には「行動経済学」「不確実性の経済学」「ピケティ完全理解」などの特集を執筆した。

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