リニアでJR東海と対立、静岡県の「本当の狙い」 水資源問題で工事認めず、「代償」は空港駅?

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富士山静岡空港は静岡県が約1600億円を投じ、2009年に開港。開港時には年間138万人の利用者を見込んでいたが、2018年度の利用者数は71万人にすぎない。離発着のほとんどは地元航空会社フジドリームエアラインズの運航便だ。期待したほど便数が増えず、空港の収支は開港以来赤字続きで、県は打開策として4月から空港運営を民間に委ねた。

同空港のネックの1つがアクセス問題だ。静岡市や浜松市から車で40~50分、JR在来線・島田駅からバスで25分かかり、交通の便の悪さが敬遠される大きな理由になっている。このため静岡県は、JR東海に新駅建設を強く要望してきた経緯がある。

同空港はJR静岡駅と掛川駅の中間にあり、実は空港の真下を東海道新幹線が走っている。地上の空港につながる新幹線の駅ができれば、東京や名古屋、関西と直接結ばれ、空港の交通アクセスが大幅に改善する。LCCの就航が増え、インバウンド需要の取り込みも期待できる。

こうした新駅構想について当のJR東海は否定的で、「空港は(こだまやひかりが停車する)掛川駅と近いため、新駅を造っても十分な加速ができず新幹線の性能を生かせない」と一蹴する。

しかし県側は、2019年度予算案に新駅関連の調査費を計上するなど、実現を諦めていない。リニアの建設工事に合意する見返りとして、JR東海に空港の新駅建設をのませようとしていると考えれば、川勝知事の発言にも合点がいく。

リニア自体は「賛成」の知事

JR東海への要望はほかにもある。静岡には6つも新幹線駅があるにもかかわらず、最速列車「のぞみ」は素通りする。「ひかり」「こだま」は止まるが、のぞみより格段に本数が少ない。沿線の静岡市や浜松市は停車本数の増加を強く訴えており、県としてはこうした声も無視できない。

川勝知事はリニアの計画自体に反対しているわけでなく、むしろ推進派だ。過去には「リニアの整備自体には賛成している」と何度も発言している。過激さを増した最近の発言は、JR東海から譲歩を引き出すための知事なりの交渉術なのだろう。

今の膠着状態がさらに続くと、JR東海が進めるリニアプロジェクトの2027年開業は難しくなる。一方、急所を握る静岡県も、露骨にごねまくれば日本中からひんしゅくを買う。最終的にはお互いが歩み寄り、決着を図るしかないだろう。しかし、その糸口はまだ見えていない。

本記事は週刊東洋経済7月6日号に掲載した記事「リニア2027年開業に暗雲 工事認めない静岡県の狙い」を再構成して掲載しています。
大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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