テクノロジーごときを「神」と仰ぐ人間への疑問 人がAIに支配される時代を前にした心積もり
他人事ではない。ぼくの場合、一日でもアマゾンやグーグルにアクセスできない状況に陥れば、死に至らないまでも軽い禁断症状くらいは出ると思われる。パソコンがうまく起動しなければ頭を掻きむしりたくなるし、午前中に書いた文章が何かの手違いで消えていたりすると、好きな人から「別れましょう」と言われたくらい落ち込む。
故意でも偶発的な事故でも、ブログやホームページが削除されでもしようものなら、おそらく発狂するか、癌のような重大な病気を発症するか、いずれかだろう。ぼくを殺すのに銃もナイフも毒薬もいらない。誰かがどこかでパソコンのキーをちょっと操作するだけで充分だ……といった日常を、すでに多くの人が生きはじめている。
IS(イスラム国)の戦士たちは携帯電話を使って連絡を取り合い、ユーチューブに動画を投稿して世界の恐怖を煽っている。シリアを追われた人たちはスマホのGPS機能を頼りに延命の地を目指す。アメリカ西海岸に拠点を置くIT企業がもたらす変化は、人種、民族、宗派を超えて地球規模で進行している。それは全人類を巻き込んだ「革命」と言っていいものだ。
この革命はぼくたちに一つの契約を迫る。契約の内容は簡単なアルゴリズムの形式で書くことができる。
2.「データ」を引け。
3.「データ」の記載事項を列挙せよ。
4.「位置情報」が記載事項であれば、
5.「位置情報を提供する」を受け入れよ。
6. そうでなければ、
7.「データを提供する」を退けよ。
スマホの発信ボタンを押して、「あっ、おれ。5時36分ごろ着くから駅まで迎えに来てくれる?」といった電話をかけるたびに、ぼくたちはデータという精霊を通して、テクノロジーの神と契約を交わしつづけているのである。契約の内容は日々更新され、反復され、個々のステップを踏んで進み、あっという間に、「ゲノム情報」が記載事項であれば→「ゲノム情報を提供する」を受け入れよ、という場面にまで立ち至る。
医療とAIの結びつき
アマゾンのサイトを立ち上げると、ときどき遺伝子診断のバナー広告が入ってくる。普段からゲノム編集や生命科学関係の書籍をよく買っているので、こちらの嗜好をご存じなのだろう。お値段は2万円くらいだ。
申し込むと、まず検査キットが送られてくる。唾液を採取して郵送し、解析後のデータをスマートフォンなどで見ることができる。これにより各種の癌や、心筋梗塞・2型糖尿病・高血圧といった生活習慣病など数百種類の疾患リスクがわかるらしい。すでにぼくたちは「ゲノム情報を提供する」という契約を受け入れつつあるのだ。
今でも癌などの病気にかかれば、自身の命を含めて見ず知らずの医者に判断と決定を委ねる。近い将来、AI(人工知能)のほうが、人間の医師よりも的確な診断を下せるようになれば、身体と健康についての重大な選択は医療用のアルゴリズムに任せることになるだろう。
こうして自分自身に関する多くのことを、ぼくたちはコンピュータ・サイエンスを中核としたテクノロジーに委ねるようになっていく。ネットワーク化したアルゴリズムと遺伝子工学が結びついて、病気を治療したり、予防したり、身体と頭脳をアップグレードすることが可能になれば、多くの人がこれらのサービスを購入するだろう。後れを取らないためには否(いや)が応でも購入するしかない、という状況に追い込まれる可能性が高い。
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