テクノロジーごときを「神」と仰ぐ人間への疑問 人がAIに支配される時代を前にした心積もり

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人間(ホモ・サピエンス)は時代遅れになるかもしれないのだ。ホモ・サピエンスに代わる新しい人類を、歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリは「ホモ・デウス」と名付けている。この新しいタイプの人類は、コンピュータ・サイエンスや遺伝子工学などのテクノロジーの力を借りて、自分自身を含めた全世界を思い通りに創造しうる。まさに「神なる人間」である。

すでに多くの人たちが「神なる人間」を目指して自己をアップグレードしはじめている。こうした志向は今後さらに強まるだろう。

だが、パイはきわめて小さい。首尾よく「神なる人間」となりおおせるのは、選ばれたごくわずかの者たちであり、その他の大多数はただデータを提供するだけの存在になり下がる。自らをアップグレードできなかった人間(ホモ・サピエンス)は、やがてネアンデルタール人のように淘汰されてしまうかもしれない。

だから誰もが是が非でも帰依しようとするのだ。競って信者になろうとするのだ。いま生まれつつある新しい宗教に。

帰依したからといって、おそらく安らぎは得られない。いくら熱烈な信者になったところで、ぼくもあなたもネアンデルタール化する可能性が高い。なにしろ「ホモ・デウス」へと至る門は、とても狭いようだから。

データ提供するだけの存在

ぼくたちはもう少し生きつづけるつもりだけど、そうすると生きているあいだにネアンデルタール化はしないまでも、時代遅れのアルゴリズムになる可能性は大いにある。

いまでも毎日、アマゾンやグーグルやフェイスブックにアクセスすることによって大切な個人情報を提供しつづけている。アマゾンの場合は買い物をするわけだからお金を払っているけれど、グーグルやフェイスブックといった無料のサービスはどうだろう? ツイッターやユーチューブやインスタグラムは?

細かなビジネスモデルがどうなっているのか知らないけれど、便利なサービスの見返りとして差し出しているのが、一人ひとりの個人情報であることは間違いないだろう。

つまりぼくたちは日々刻々と、未来の「ホモ・デウス」たちにデータを提供するだけの存在になりつつあるのだ。その見返りとして与えられているさまざまなサービスが、将来はベーシックインカムのようなものになっていくだろう。

21世紀のうちに人類が生きることになりそうな世界のヴィジョンは、すでに大まかなところは出尽くしている。現にスマホもインターネットも、単なる使い勝手のいいインフラというよりはライフラインに近いものになっている。おそらく接続を絶たれるだけで死に瀕する人が、現在でも地球上に何百万、何千万といるはずだ。

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