東大教授が教える「文系人が数学を楽しむ方法」 "数学アレルギー"のままではもったいない

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一見、単なる数字や記号の羅列に見えてとっつきにくい公式ですが、そもそも数学とは、「この池の大きさを知りたいなあ」とか、「こんな大きさの家を作りたいなあ」といった、人間の生活上のニーズに応じて生まれたごく身近なツール。

公式とは、そのために先人たちが、長い時間、ときには一生を費やして導き出してくれた尊い叡智です。

それを知ることで、単なる数字や記号の羅列にも血肉が通い、かなり親しみやすくなるのではないかと思っています。

公式は「叡智」のかたまり

例えば、私は以前、近代数学の父と言われるドイツ人数学者、カール・フリードリヒ・ガウスが暮らしていた街に行ったことがあります。彼は物理学者でもあって、彼の名前が「磁束密度」という「磁気の強さの単位」にもなっているので、肩こり治療用のマグネットなどで「ガウス」という単位を耳にしたことがある人も多いでしょう。

その彼が住んでいた街には、小さな山がありました。きっと彼も登ったはずです。私も行ってみたのですが、山を登り切ったとき、何を感じたか想像がつきますか?

「ああ、ビール飲みたい」!? まあ、それもありますが、正解は「遠くに見えるあの山までの距離を測りたい!」ということでした。

ドイツというのはほとんどが平地なので、山があると目立つのですね。だだっ広い平地の遠く離れたところに山が見えるあの場所に実際に立てば、みなさんもそう感じるのではないかなと思います。

実は彼、いろいろな功績を残しているのですが、その集大成の1つが彼が作った理論「微分幾何学」です。簡単に言うと「曲面など図形の曲がり具合の本質を捉えた」学問のこと。例えば、丸みを帯びた三次元の面を、紙のような二次元の世界で表す方法などを確立しました。

つまり、地図です。地球は本来、丸いにもかかわらず、私たちが目にする地図は、地球儀を除けば平面ですよね。この、曲がっている丸い地球の表面をA地点からB地点まで実際に移動する距離と、定規を使って平面の地図上で測った距離とが一致させる変換のロジックを考えたのです。だからガウスは、近代数学の父でもあり、幾何学の父でもあり、測量の父でもあり、地図の父でもあるのです。

思うに、あの日私が見た遠くの山を、ガウスも時々眺めながら、「あの山までの距離を知りたい!」と思ったに違いない。その測量への思いがあったからこそ数学の世界にのめり込み、幾何学への情熱が失せなかったのではないかと勝手に想像しています。

こういった先人たちが発見してきた叡智をありがたく使わせてもらっているのが「公式」というわけなのです。そう考えると、公式や記号は、先人の努力や試行錯誤の結晶であり、無機質な数字もありがたいものに思えませんか?

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