「聴覚障害者」にとって通勤電車はこんなに怖い 車内放送聞こえず、何が起きたかわからない

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確かに、車内にはいろいろな人がいるので、そういうことを迷惑に思う人にうっかり助けを求めると、かえって危険を招き寄せてしまう可能性もある。積極的に「困ったら声を掛けて」という意思を表明している人がいれば、鉄道だけでなく街に出て行くことの不安が小さくなるだろう。

立体イラストは登場する人一人ひとりが、それぞれのキャラクターをもっているのが魅力(筆者撮影)

最後に、聖奈さんに「こういう鉄道になるといいな」という将来像を聞いてみた。

「車内でうつむいてスマホばかり見ている人が多く、乗車を楽しんでいる人をあまり見かけなくなりました。鉄道が単なる移動手段だけでなく、自分の気持ちも一緒に乗り込んで鉄道を感じて楽しむ人が増えるといいなと思います。

私の原点は、『鉄道の表情は乗客が作る』ということ。乗客や駅にいる人などそれぞれが動いて感じている絵を描くことで、電車の楽しさを表現していきたいと思います」

誰もが安心して鉄道を楽しめるように

機能を求めるあまり、ともすると無機質になりがちな鉄道の標示などだが、流山鉄道や江ノ島電鉄の車内の路線図のデザインを依頼されたり、江ノ島電鉄の車両全体に聖奈さんの絵日記を展示したギャラリー電車「えのでん絵日記号」が運行されたりして、少しずつ彼女の意思が伝えられていっている。

電車旅の気分を盛り上げるような、江ノ島電鉄の路線図。昨年から今年5月まで掲示されていた季節ごとのバージョンがある(筆者撮影)

殺伐とした車内ではなく、安心して鉄道を利用し、その空気を楽しめるようになることは、障害を負った人だけのためではない。女性も、お年寄りも、疲れ切った人も、今日つらいことがあった人も……、温かく包摂して運ぶ鉄道になっていくことで得られる社会の未来像を、見せてもらったようだった。

柳澤 美樹子 りゅう文章工房代表

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やなぎさわ みきこ / Mikiko Yanagisawa

「旅・食・人」をテーマとした、著述・編集業。まちづくりや交通、伝統食、神社などに関心が深い。健康・医療を中心に、インタビューなども手がける。信州、金沢、伊勢・志摩をはじめとした地域ガイド、鉄道や生活文化などを取材・執筆。著書に『鉄道廃線跡を歩く』シリーズ、『達人に学ぶ鉄道資料整理術』など。

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