「卵」がいつでもこんなに安く買えるという異常 年間48億円の税金を投入している事業とは?

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両制度とも卵の価格が一定金額を下回った場合に養鶏事業者団体の積立金と国の補助金からの支出によって補てんがなされるものだ。鶏卵価格差補塡事業では国:生産者=1:3の割合で積立金を拠出し、そこから補てん金が支払われる。成鶏更新・空舎延長事業は国:生産者=3:1の割合で協力金が拠出され、そこから奨励金が支払われる。

「鶏卵価格差補塡事業」は鶏卵価格が基準価格を下回った際に差額を補てんする制度で、現在185円/㎏を下回った場合にその差に応じて補てんが行われている(上限は差額の9割を補てん)。

「成鶏更新・空舎延長事業」とはどんな事業なのか。同省の説明によれば以下の内容を指す。

「鶏卵の標準取引価格(日毎)が安定基準価格を下回る日の30日前から、安定基準価格を上回る日の前日までに、更新のために成鶏を出荷し、その後60日以上の空舎期間を設ける場合に奨励金(210円/羽以内。ただし、小規模生産者(10万羽未満)は270円/羽以内)を交付する」

2018年度は2度実施された

平たく言うと、卵の過剰生産で価格が下落した際、緊急措置として生産を減らすために採卵鶏を出荷し処理(殺すこと)、その後60日以上鶏舎を空にすれば生産者に奨励金を交付するというものである。一羽当たり最高で270円が養鶏業者に交付されるだけでなく、出荷された成鶏の処理を行った食鳥処理場にも1羽23円以内の奨励金が交付される。

成鶏更新・空舎延長事業は2010年に始まり、2012年、2013年にも実施され、卵の供給過多となった2018年度には2度実施された。1度目は2018年4月23日に発動され同年6月25日に停止されるまで続いた。2度目は2019年2月1日に発動され3月31日に停止した。

2018年度の成鶏更新・空舎延長事業は大規模生産者(10万羽以上)では更新のために出荷された羽数が約433万羽、処理羽数が約428万羽だった。小規模生産者(10万羽未満)では出荷羽数が約133万羽、処理羽数が約132万羽。1年間で合計560万羽以上が処理されたことになる。

農林水産省は2019年度も同額の48億6200万円を同事業に予算にあてている。2019年6月現在の安定基準価格は163円/㎏だ。今年度はすでに5月20日に実施されている。

物価の優等生と言われる卵だが、税金が投入され、鶏が大量に殺されていることも私たち消費者は忘れてはならない。

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