「卵」がいつでもこんなに安く買えるという異常 年間48億円の税金を投入している事業とは?

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「成鶏更新・空舎延長事業」は農産物の需給改善事業とのことだが、その対象は命ある鶏だ。

「鶏を殺すことに『更新』という言葉を用いるところをみると、鶏の命は軽く扱われているのかもしれない」とアニマルライツセンター代表の岡田千尋氏は言う。

しかし、卵の生産者が悪いという決め付けでは問題は解決しない。スーパーの特売などで生産者は無理な価格設定を押し付けられることもある。日本では生で卵を食べることもあり、サルモネラ対策への費用もかかっている。

卵の過剰な大量生産を止め、価格が異常な下落に至らないようにする以外に根本的解決はないと言える。物価が上昇してきた戦後の経済発展の中で、物価の優等生などと言われ価格がほとんど変わらないか、むしろ下がっていることが異常なのだ。

卵は肉食よりも残酷と言われる理由

持続可能性という言葉が一般的になってきた。養鶏事業の持続可能性についても検証が必要だろう。異常ともいえる卵価格の下落は養鶏業者の生産活動を困難にする。そして、生産者の苦しみもさることながら、最大の負担を背負わされているのは鶏だ。日本の養鶏はバタリーケージといわれる狭い網の檻で行われることがほとんどだ。

鶏卵についてのアニマルウェルフェア(動物福祉)度の比較。来年に迫る東京五輪での食料調達を考えるうえでも問題視されている(写真:NPO法人アニマルライツセンター提供) 

生産効率を上げるためにほとんど身動きできないほどの狭い檻のなかで鶏は一生を暮らす。糞が下に落ちるように床も網でできており、止まり木で休む習性のある鶏にとって本来ふさわしくない。また産んだ卵が転がるように傾斜もついている。狭い檻から出られるのは、卵を産めなくなって、人間の用済みとなり、廃鶏と呼ばれて処理されるときだけだ。

そもそも品種改良(人間にとっての改良)で、肉用の鶏はブロイラー、卵を得るための採卵鶏はレイヤーと呼ばれ、他方の目的には適さない。したがって、レイヤーの孵化させて生まれる半分のオスのヒヨコは人間にとって不用物であり、生まれてすぐにすりつぶすなどして殺されている実態を知る消費者は少ない。卵が肉食より残酷であると言われるゆえんのひとつだ。

消費者が安いというだけでモノを購入していくと、その裏で何か負担を強いられているものがあるということを忘れてはならないだろう。もっと1個1個の卵をありがたみを感じながらいただく消費者であっても良いと思う。

細川 幸一 日本女子大学教授

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ほそかわ こういち / Koichi Hosokawa

専門は消費者政策、企業の社会的責任(CSR)。一橋大学博士(法学)。内閣府消費者委員会委員、埼玉県消費生活審議会会長代行、東京都消費生活対策審議会委員等を歴任。著書に『新版 大学生が知っておきたい 消費生活と法律』、『第2版 大学生が知っておきたい生活のなかの法律』(いずれも慶應義塾大学出版会)等がある。2021年に消費者保護活動の功績により内閣総理大臣表彰。歌舞伎を中心に観劇歴40年。自ら長唄三味線、沖縄三線をたしなむ。

 

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