「老後資金」不足は2000万円なんてもんじゃない

金融庁の報告書を批判するのは筋違いだ

定年時に5000万円を準備することなど可能だろうか?実は、20年前は退職金の平均額が3000万円であり、2000万円貯めることができれば、老後資金作りは比較的容易であったと想像できる。夫婦共働きの公務員夫婦であれば、お互いの退職金で6000万円相当を受け取っているような家庭もある。大企業であれば、企業年金と言って退職者に対して政府の年金以外の資金を年金として受け取れる場合もあった。JALのように会社が破綻して企業年金が減額されるような事例もあるので万全とは言えないのだが。

こうした潤沢な老後資金をもつ団塊の世代がいる中、老後資金の不足は一部の人の問題と認識していた人もいるだろう。だが、今回金融審議会で発表された報告は、率直なところ「ほとんどの人がもっと足りないだろう」というのが筆者の感想だ。

金融庁が報告書を出した本当の理由

今回、たまたま参議院選挙の前に報告書が発表されたので、政権にダメージを与えるための政治的なタイミングで提出したとみる向きもあるだろう。真偽は不明だが、選挙前のタイミングだからこそ、国民的な議論となったという面は否定できないだろう。

老後資金不足のような不都合な情報は早く出すほどよいと筆者は考えている。その理由は、準備期間が長期戦だからである。60歳の人に65歳までに2000万円の準備を求めた場合、年間400万円の積立を行う必要がある。これは日本の平均所得を丸々貯めるという事であり、不可能に近いことだろう。

一方で、25歳の人が65歳までの2000万円を準備する場合、40年の間に、毎年50万円、月額4万円相当の積立をすればいい計算だ。もっとも、毎月4万円の積立自体が大変ではあるのだが……。

今回の報告書では、老後資金準備のためにiDeCoとつみたてNISAの2つのツールが説明されている。何のことはない、実はこの報告書は、iDeCoとつみたてNISAの口座数や稼働数を上げるためのものなのだ。つまり、金融庁には、iDeCoの加入者が年金加入者の1%でしかない実態を改善し、つみたてNISAの稼働を上げ、そして長期・積立・分散投資を浸透させることで、株式市場への資金流入を安定化させ、資産運用マーケットを整備する思惑があるのだ。

こうした視点を抜きにして今回の報告書の意図は見えてこないだろう。金融庁は公的年金を批判したわけではないのだ。老後資金が足りないからという理由で国民にiDeCoとつみたてNISAを利用することを促し、銀行と証券会社には金融免許を付与する機関として、営業資料作りに“協力”しただけに過ぎないのだ。

だが、別の思惑があったとはいえ、不都合な真実を明らかにした今回の報告書に国民が感謝する日がくるだろう。「将来年金はもらえないかもしれない」という疑心暗鬼が多少リアルになったことで、国民ひとりひとりが自らの将来設計を考える機会にはなったのだから。

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