「老後資金」不足は2000万円なんてもんじゃない 金融庁の報告書を批判するのは筋違いだ

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4つ目が労働力の増加である。政府は目下、あの手この手で働く人を増やしたり、公的年金保険料の納付対象者を拡大しようと躍起になっている。女性活躍推進、高齢者雇用、短時間労働者の社会保険加入など、男女、老若、短時間といったキーワードで年金保険料を払う母数確保に余念がない。

そして、5つ目に運用利回りがある。公的年金は150兆円もの資金を運用しており、運用成果において利益が多くなれば、年金財政は長期安定する。一方、損失が発生すれば不安要素になる。公的年金の運用は、3カ月ごとに成果報告があり、プラスになったりマイナスになったり、一進一退となっている。運用利回りが唯一、想定外が続いていない指標であるといえる。

5000万~6000万円あっても不安?

こうした状態からわかるように、そもそも年金だけで暮らせる制度設計にはなっていない。10年以上前から厚生労働省の資料に書かれている事であり、今回の騒ぎ方は異常である。従来指摘しなかったマスメディアに問題がある。

今回、年金行政を担当しない金融庁だからこそ、老後資金不足を指摘できた側面があるだろう。厚生労働省の立場では、年金は100年安心ですとしか言えない。また所得代替率という難解な用語を使うことで、理解しにくくしているのだが、それこそ“不都合な真実”をわかりにくくする技術でもある。

老後資金の試算は非常に難解である。年金受給額は厚生労働省の資料を使い、生活費の水準は総務省の統計を使う。この2つを使えば100歳まで生きた場合の生活費の不足額はものの5分で計算することができる。しかし、総務省の統計は日本全国の生活実態を集約しており、地域性が見えてこない。さらに、住居費の負担が非常に少ないなど、持家と借家がごちゃ混ぜになっているため、統計数値に違和感を覚える状態だ。

筆者がある60代の年金受給家庭の老後資金を計算した結果、年金だけでは15年間で2000万円不足し、100歳までの30年間で4000万円不足する計算となった。したがって、普通に生活するだけでも、手元資金として4000万円必要であるとわかる。ここに介護や医療費、リフォーム費用が重なれば、5000万~6000万円の準備があっても生活に不安を覚えるだろう。

世間的に高齢者とされる80代の方に、お金を使わない理由を尋ねると、「老後の不安」という言葉がでてくる。すでに老後もいいところなのだが、お金が安心して生きるよりどころになっていることがわかるだろう。

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