不振の「地銀」支援にSBIが名乗りを上げた理由 全国で提携を急速に拡大、再建に自信見せる

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さらに、ネットを通じた業務の全国展開を支援するほか、国内外の融資先を紹介したり、マネーロンダリング(資金洗浄)対策など一部システムの共通化による効率化を支援したりして、収益向上を図る。融資先に関しては、「SBIは融資先を国内外に数多く持つ。ベンチャーが株式公開する一歩手前の融資案件など、東南アジアを中心に広いネットワークを持っている。それらを活用して(地銀の)投融資の利回りを改善していく」(北尾社長)。地銀の本社社屋の活用・売却も共同持ち株会社で支援するという。

「最初は『北尾さんのところに乗っ取られるのでは』と心配していたところもあったかもしれないが、今では『SBIは救世主』というふうに皆思っている。大義は地方創生であり、国策にも沿う」とし、最も経営の厳しい地銀でも「3~4年あれば復活は十分可能。テクノロジーの力で変えていく自信はある」と北尾氏は語る。

スルガ銀行の再建にも自信

SBIは2013年、経営難にあった韓国の貯蓄銀行(個人、中小企業対象の地域密着型金融機関)を買収。当時は先行きを危ぶむ声もあったが、3年で黒字化し、今では年間130億円(2018年3月期)の純利益を稼ぐ韓国トップの貯蓄銀行になっている。

昨年はロシアでも経営危機の銀行を買収したが、これもほぼ1年で黒字化を見込む。「決め手はテクノロジーの活用と、金利差を利用するアービトラージ。日本の安い金利で調達して、ロシアの銀行の資本金に入れると、為替のヘッジをしても十分採算が合う」(北尾社長)。こうした海外銀行の事例を通じて、経営難にある銀行の再生に自信を深めたようだ。

スルガ銀行は7800件余りの不正融資で行員119人が処分された(撮影:尾形文繁)

国内に業績の厳しい地銀が複数あるが、右肩上がりの業績が一転したのがスルガ銀行だ。不正融資の発覚から多額の不良債権処理費用が発生し、2019年3月期は971億円の純損失と、17年ぶりの最終赤字に転落した。苦境に陥ったスルガ銀行についても、「スルガ銀行は静岡銀行と横浜銀行に挟まれて東京に進出したが、やり方がまずかった。だが、そんなことをしなくてもネットの力を使えば全国展開できる」と北尾氏は言う。

ただ、「現段階で、うちは(スルガ銀行の支援に)絶対手を挙げない。創業家の株の問題をきっちり解決し、不良債権もすべて出し切り、公正な市場価格になれば支援できる。そうでなければ当社の株主にも申し訳が立たない」(北尾社長)としている。5月にスルガ銀行は、新生銀行とノジマと業務提携を発表したが、資本提携先は決まっていない。状況次第では、SBIが候補先になる可能性もありそうだ。

SBIホールディングスの北尾吉孝社長兼CEO(撮影:梅谷 秀司)

共同持ち株会社にはSBIと友好関係にあるソフトバンクの出資は想定しておらず、メガバンクや有力地銀など金融機関などに声をかけているという。新会社設立にあたっては、SBIグループ以外の金融機関から出資をどれだけ集められるかも大きなポイントだ。

地銀に対する大規模に出資する場合は、金融庁の認可が必要になり、出資がうまくいくのかなど不透明な部分も残る。だが、弱小地銀の単独再生が困難なことは、金融庁も重々わかっている。果たして、SBI主導のグループ化が地銀再生の決め手になるのか。

『週刊東洋経済』6月22日号(6月17日発売)の特集は「銀行員の岐路」です。
中村 稔 東洋経済 編集委員
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