トヨタが株主総会で描く「事故死者ゼロ」の未来 事故防止のためのAI研究部門トップが初登壇

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豊田社長は「実現しないといけないのは交通事故死傷者ゼロの世界だ。自動運転をはじめとする先進技術の開発に取り組んでいるのもそのためだ」と真剣な面持ちで語った。

トヨタでそうした先進技術の開発を担当しているのは、人工知能(AI)研究を行う米子会社トヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)だ。2016年1月にTRIのCEOに就任し、トヨタでは副社長格のポストとして新設したフェローでもあるギル・プラット氏は「現在何百人もの世界トップクラスのAI研究者が日米で『ガーディアン』と呼ばれる技術を開発している。悲惨な事故を予防するだけでなく、安全な運転ができなくなった高齢者のモビリティの自由も確保したい」と話した。

TRIが開発中のガーディアンは、各種のセンサーなどでドライバーの状況を観察し、危険な状況では運転を代わることで事故を防ぐ。トヨタはこの技術を外部にも提供する方針で、プラット氏が初めて株主総会で登壇したのも、トヨタとして先進技術の開発に取り組んでいることを広くアピールする狙いがあったようだ。

豊田社長の後継者に関する質問も

トヨタはモビリティカンパニーへの変革を掲げ、CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)と呼ばれる新領域に全方位で取り組んでいる。豊田社長は「モビリティカンパニーに向けたフルモデルチェンジは自分の在任期間ではできない」と言い切り、むしろ、企業風土改革に強いこだわりを見せる。企業規模が大きくなり、好業績も出す中、慢心が社内に広がることを何よりも恐れる。 

豊田章男社長は株主総会でトヨタの企業風土改革を社長在任中にやり切る覚悟を強調した(写真は5月8日の決算会見のもの、撮影:風間仁一郎)

今月で社長に就任して10年となった豊田社長だが、リーマンショック直後の赤字から会社を回復させ、アメリカにおける品質問題や東日本大震災など難局を乗り越えてきた。総会では「次の社長はどんな人か」という後継者に関する質問も株主から飛び出した。

豊田社長は「豊田という姓があろうがなかろうが、誰が社長になっても大切なことは創業の原点を見失わず、未来の“ベター”につながることを、年輪を刻むかのごとく積み重ねていくことだと思う」と述べるにとどまった。

業績面で見れば日本車メーカーではもはや独り勝ちのトヨタ。株主総会の運営はいたって安定していて、余裕すら感じさせた。ただ、友山茂樹副社長が「これから10年が正念場」と話した通り、トヨタの変革はまだ緒に就いたばかりだ。自動車業界を取り巻く環境が激変する中、豊田社長はこれまでまいた変革の種をどのくらい咲かせることができるだろうか。

木皮 透庸 東洋経済 記者

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きがわ ゆきのぶ / Yukinobu Kigawa

1980年茨城県生まれ。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。NHKなどを経て、2014年東洋経済新報社に入社。自動車業界や物流業界の担当を経て、2022年から東洋経済編集部でニュースの取材や特集の編集を担当。2024年7月から週刊東洋経済副編集長。

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