アメリカでもそうなんですが、この「自分の住んでいる地域(コミュニティー)に対するプライド」というのが、そもそも日本には欠けている地域が少なくないのです。これは東京にいるときにはまったく気がつきませんでした。
もっと言うと、「当事者意識」とでもいうんでしょうか。アメリカでもシアトルならシアトルという自負があり、つい最近まで空港からの鉄道敷設にしても、何度も反対運動で潰れてきました。理由は、といえば、あまりにも便利になると「有象無象」がやってきてシアトルらしさが失われ、肝心の自分たちの文化が衰退するから。だから反対するわけです。「交通が便利になれば自動的に人が来て儲かる」と思っている、考えの浅い人たちしかいない地域とは、わけが違うのです。
これがフランスになるともう、筋金入りです。
例えばブルゴーニュではブルゴーニュワイン以外はほぼメニューの後ろに追いやられていますし、ブルゴーニュ以外のワインを頼むこと自体がはばかられる雰囲気です。これはシャンパーニュ、ボルドーでもまったく同じで、シャンパーニュにいるからにはもうシャンパーニュを飲むしかないのです。
フランスのように、なぜ「堂々と」できないのか?
飲み物が地元産のものに限定される地域など日本にはほぼありえず、それだけ地域性が薄いと言えますし、ある意味、地元の方にはそんなこだわりはないし、こだわれる物自体がないところも多い……といえるのではないでしょうか(日本ではよく、ワインと日本酒が比較されます。が、これはコカ・コーラと100%果汁ジュースを比較するようなもので、そもそも比較になりません。ワインはテロワールといって、その土地土地の味がブドウに吸収され、ほかの地域ではマネができません)。
チーズですら、ブルゴーニュでは同地方のエポワス村産以外のチーズを頼むのには勇気がいります。同じように、シャンパーニュなら同地方のシャウルス産以外はありえないのです。こういうこだわりが、日本にはありそうでないわけですね。
そもそも、そういうことを考えて地元の特産品を磨き上げていない。さらにブルゴーニュは内陸の地域ですから海からは遠い……ですから「メニューに魚はありません!!」というレストランがたくさんあります。観光客を相手にするレストランだと「ポワソン(魚)もあります」とわざわざ書くくらいで、普通はないのです。しつこくて申し訳ありませんが、「信州の山奥でまぐろの刺身を平気で出してくる神経」は、フランスでは信じられないのです。
なぜ「信州は山国で海はない。だから海の魚はない!」と断言しないのでしょうか。「信州とはそういうものだ」と言い切ればいい、と思うんですよ。だって、それが信州そのものですよね。なのに、まぐろは出てくるは、旅館の朝飯にはアジの干物が出てくるわ……ブルゴーニュなどフランスの地方にいるとそれは大きな間違いだ、ということが痛切に感じられます。
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