豪華寝台「瑞風」は沿線住民の意識を変えた 経済効果だけでなく住民同士の交流の機会に
2019年4月現在、いくつかあるコースのうち2泊3日の「山陽・山陰コース」の2日目。月3回程度、木曜日の朝8時22分に、「瑞風」は宍道に到着する。乗客は駅前で待機している専用バス(瑞風バス)に乗り換えて奥出雲へ向かう。列車は松江へ回送され、夕方、戻ってくる乗客を待つ。
言ってしまえば宍道は、交通の便がいいなど諸条件に恵まれたことから、たまたま「乗り換え地」となったにすぎない。宍道町自体は目的地ではない。
しかし、今では「瑞風」の停車日が町の人たちに心待ちにされている。保育園児から年配の方々までが集まり、定番ともいえる小旗を振っての歓迎はもちろんだが、武者や神話の登場人物に扮しての出迎えや、地元の宍道高校の生徒による「撮りますボランティア」(シャッターを押すサービス)なども、乗り換えが終わりバスが出発するまでの、わずか十数分の間に展開される。
停車日は住民交流の機会に
すごいのはそこからで、バスが出発し列車が回送されて去っても、集まった人たちは解散しない。宍道駅前には、2016年に新築完成した松江市宍道支所・宍道公民館の複合施設があるが、そこへ移動し茶話会が始まる。施設を利用したカフェが「瑞風」の停車日には開かれ、住民交流の機会が提供されているのだ。
つまり、宍道にやってくる「瑞風」を受け身の立場で歓迎するだけではなく、むしろ積極的に活用し、自分たちの地域を盛り上げるためのチャンスとして利用している。それまでになかった豪華列車が地元の町に停車するようになったという大きな出来事を契機に、観光客のおもてなしだけに終わらず、町としての一体感の醸成に役立てられているのだ。
いつも来る人の姿が見えないと「体調を崩したのではないかねえ?」と、お互い声を掛け合っているそうだ。「『瑞風』が来る日に駅へ行けば、地域の人たちに会える」との意識が生まれたのである。
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