日本人にわからない「米朝中」の奇妙な三角関係 ミサイル発射に関税措置がまた始まった

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とはいえ、「中国にとって、極東でアメリカの同盟関係が崩壊する以上にうれしいことはない」と、ロエイリグ氏は言う。「北朝鮮の非核化問題は、つねに米中関係の全体的な状況と結びつけられて処理されていくだろう。米中貿易交渉の成否にかかわらず、朝鮮半島は中国の国益にとって重要であり、中国はこの国益に従って行動していく」。

北朝鮮に対する中国の国益はつねに安定の優先に立脚しており、そうであるがゆえに中国は、地域の緊張を高めかねない挑発行為を寛恕してまで金委員長を権力の座にとどまらせている。 習主席と金委員長の関係はこの2年間で劇的に改善したが、2人が2度目の米朝首脳会談前から会っていないことは注目すべき点だ。

世にも奇妙な三角関係

ハノイでの会談以降、中国は北朝鮮に対する制裁措置を明確に緩和してきた。 北朝鮮専門ニュース「NK News」は、中国の公式税関統計を見ると、北朝鮮への輸出が3月に倍増したことがわかると伝えている。トランプ政権の幹部高官によると、中国海域で行われている瀬取りが急増しており、半公式の承認を得て貿易統制を逃れているという。

中朝関係関連の著書もあるスナイダー氏は、「これは北朝鮮が (中国からの)十分な血流と血行の恩恵を得られていることを意味するが、本当の経済的独立に必要な物資が十分に得られないことになる」と語る。

この中朝瀬取りが米中貿易戦争とどう折り合いをつけられているかというのもスナイダー氏には見えている。折り合いがついているからこそ、中国は少なくとも表面的には対朝制裁に協力的だというのである。

「今中国では貿易問題こそ最優先で北朝鮮は二の次になっているため、対朝貿易は平素のお付き合い程度にとどめてアメリカを助けている」とスナイダー氏は言う。「もっとも、裏では『何とかしてやる』ぐらいのことは言っているだろう。中国はまた、北朝鮮・韓国の双方に『朝鮮半島の政治経済は中国抜きでは成り立たない』と思い知らせるべく、必要なことをしてくるだろう」

北朝鮮と米中貿易戦争。これら2つのアジア危機は、世論外交という奇妙なものに要所要所を押さえられて、長い不確実期へと突入しつつある。トランプ大統領が今月末に日本を訪れるときも、おそらく何も変わっていないだろう。

ダニエル・スナイダー スタンフォード大学講師

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Daniel Sneider

スタンフォード大学ショレンスタインアジア太平洋研究センター(APARC)研究副主幹を務めている。クリスチャン・サイエンス・ モニター紙の東京支局長・モスクワ支局長、サンノゼ・マーキュリー・ニュース紙の編集者・コラムニストなど、ジャーナリストとして長年の経験を積み、現職に至る。

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