30万円ウォークマンは「社員の遊び」で生まれた ソニー社員はこうやって仕事を作り出す

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――2016年に約30万円のウォークマンNW-WM1Zが出るわけですが、別名「黄金のウォークマン」とも呼ばれるくらい、どっしりとした金ピカの筐体(きょうたい)が目立ちますよね。

NW-ZX1を出したあと、ウォークマンで使っているシステムでは、筐体の抵抗値を下げると高域が伸びて、筐体が重くなると音もどっしり感が出ることがわかってきました。そこで、アルミの材質を変えていきました。ところが、アルミは純度を上げるとやわらかく削りにくくなってしまいます。

WM1シリーズの試作機。アルミや無酸素銅、さらにメッキ加工と複数試作している(撮影:梅谷秀司)

そのとき一緒に仕事をしていたメカ担当が「だったら銅いっちゃいますか」と言い出しまして。それで無酸素銅で試作したら、ものすごく音がよかったんです。銅をむき出しのまま売るわけにもいかないので、金メッキをしました。そしたら、またすごくいい音になったんです。こうしてNW-WM1Zの試作機ができました。

ただ、すごく重いんです。2015年にNW-ZX2を発売したときに、高木(ソニービデオ&サウンドプロダクツ〈現ソニーホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ〉の社長)から「次の機種は軽くしてほしい」と言われていました。NW-ZX2が約235グラムなのに、さらに倍近い重さです。これは製品化できないなと思っていました。

――せっかく開発したのにお蔵入りしてしまったんですね。そこから、どうやって製品化したのでしょう?

上司に提案して、3回ダメと言われました。(ビジネスの観点から)正しい判断と思います。ただすごいねという話にはなり、事業本部長らが試作機を持って高木に説明に行ってくれました。

そこで音を聴いてもらったら、高木は「音はすごくいいな、けど、すごく重いな」と曲を聴いては本体を手に持つ、を繰り返していました。その日に高木はたまたま平井(ソニー前社長)に会う予定があり、「平井さんにも見せたいから試作機を貸してくれ」と持っていきました。

後日「平井さん、すごい喜んでいたぞ」と高木から聞きました。これで製品化のGoサインがもらえたんです。止められて当たり前の企画だと思っていたので、とてもうれしかったですね。

まっとうなことをやっていたら、こうなった

――WM1シリーズが発売された後、デジタルミュージックプレーヤーDMP-Z1を担当したそうですね。黒い箱にヘッドホンを刺すとメモリーに入れた音楽が聴ける機械、これが95万円というのは詳しくない人間からすると驚きの価格です。どういうニーズがあったのでしょう?

大きなつまみが特徴的な「DMP-Z1」(撮影:梅谷秀司)

だいたい2年ごとに新製品を出すのですが、WM1シリーズはまだ戦えると判断しました。そこで、お客さまが何を不満に思っているのだろうと、ソニーストアなどで聞いたんです。銀座のソニーストアに行くとユーザーの方の声を、じかに聞けるので楽しいんです。

WM1シリーズはポータブルを目指しましたが、少し重いので、家で使うことが多くなります。そうすると、ソニーのヘッドホンは鳴るけど、他社の大きいヘッドホンだとちょっと音量が小さいよねと言われて、悔しく思いました。それで、デジタルミュージックプレーヤーを作ることにしたんです。

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