豊田章男社長、「デンソー取締役就任」のなぜ トヨタ外のライバル取引先「離反」の恐れも

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トヨタはハイブリッド車(HV)を中心とした電動技術の特許を2030年まで無償開放する方針を打ち出し、HVシステムの外販でデンソーが担う役割も大きい。デンソーとアイシンが今月共同で設立した会社は電動車用の駆動モジュールの開発・生産を行う。世界各地で今後加速する自動車の電動化をビジネスチャンスと捉えた動きだ。

グループ内の連携は電動化領域に限らず、自動運転にも広がる。トヨタ、デンソー、アイシン精機の3社は昨年、自動運転のソフトウェア開発を行う新会社を共同で設立。今月には、トヨタとデンソーがソフトバンクグループとともに米配車大手のウーバー・テクノロジーズの自動運転開発部門への共同出資を決めるなど、協調して動くことが増えている。

4月26日の記者会見で「(豊田章男社長のデンソー取締役就任は)特段の連携強化ではない」と説明するデンソーの有馬浩二社長(記者撮影)

そんな中、デンソーが今回の取締役人事について、「グループ連携の強化」と大手を振って言いにくいのはなぜか。それはトヨタ以外の顧客の存在があるからだ。

デンソーの車載事業の売上高のうち、トヨタグループ向けは52%、グループ外は48%とほぼ拮抗している。デンソーはいまや年間売上高が5兆円を超える世界トップクラスのサプライヤーだ。サプライヤーと自動車メーカーは技術情報を密にやりとりしており、ライバルメーカーのトップが取締役会メンバーに入ることを手放しでは喜べないだろう。また、供給する部品の価格面でもトヨタグループ向けと非グループ向けが同等でなければ、顧客離れを招きかねない。

「トヨタ優遇」の懸念を払拭できるか

26日にデンソーが東京で開いたアナリスト向け説明会では、「トヨタ以外の顧客にとって、(今回の取締役就任は)ガバナンスなどネガティブな面もあるのではないか」との質問も出た。デンソーの松井靖経営役員は「確かにトヨタ以外のお客からトヨタ優遇と思われる。きちんと説明していく」と答えたものの、説明ぶりはやや苦しかった。

デンソーの2019年3月期の売上高は、5兆3628億円で前期比5%の増収となったものの、営業利益は3162億円と同23%減となった。将来の成長領域に向けた先行投資がかさんだことやソフトウェア関連の品質費用を引き当てたことが響いた。2020年3月期は、強みとする安全製品の拡販や車両の電動化を追い風に増収増益を見込む。

「100年に一度」と呼ばれる自動車業界の大変革期を乗り越えるためには、経営のスピードアップは不可欠だ。デンソーからトヨタに打診して実現したという今回の人事。はたして吉と出るか凶と出るか。

木皮 透庸 東洋経済 記者

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きがわ ゆきのぶ / Yukinobu Kigawa

1980年茨城県生まれ。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。NHKなどを経て、2014年東洋経済新報社に入社。自動車業界や物流業界の担当を経て、2022年から東洋経済編集部でニュースの取材や特集の編集を担当。2024年7月から週刊東洋経済副編集長。

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