マドリードがブチ上げた「民泊規制」がスゴい マンション住民からの苦情殺到を受けて

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市役所は違反した場合のマンション所有者に対する罰則を科す権利は備えていないが、規定を満たさない持ち主を法的に訴えることが可能だとされている。

社会労働党の調査では、マドリード市内には観光客向けマンションの数はおおよそ1万5000軒あると試算(国民党によると1万467軒としている)、その10%が中心街に位置しているという。社会労働党は、今回、可決した規制の適用により、9944軒がビジネスの継続が難しくなるとみている。

5つ星ホテルが続々進出を狙っている

これに対して、国民党は家賃が急騰しているのは観光客が殺到しているからではなく、マドリードの人口に対してマンションそのものが足りていないから、とのスタンス。例えば、バルセロナには2万5000軒、ロンドンには7万8000軒、パリには3万5000軒の観光客用マンションがある中、マドリードでこれを500軒近くにまで減らすことは、何らかの弊害をもたらすと批判している。

一方、マドリードは5つ星級の高級ホテルの誘致に力を入れている。バルセロナ市が新たなホテル建設に厳しい規制を設けた反発もあって、高級ホテルがマドリードへの進出を急いでいるのだ。

マドリードにはすでに、5つ星ホテルは8軒あるが、このほかにカナダのフォーシーズンズ、香港のマンダリン・オリエンタル、サウジアラビアのオラヤングループなどが名乗りを上げている。こうした中、リッツホテルが改装工事を始め、現在営業を停止しているなど、今後高級ホテル競争が過熱することは間違いない。

マドリードの観光産業は同市のGDPの7・7%を担っている(スペイン全体だと、観光産業はGDPの10.8%)。ただ、マドリード市からすると、観光客向けの安価なマンションを利用する観光客よりは、高級ホテルに滞在する観光客を増やしたいというのが本音なのだろう。そうすることによって、「裕福な観光客」を増やすだけでなく、ホテルで働く人の数を増やしてスペインで社会問題となっている失業率(14.4%)を減らしたい考えだ。

厳しすぎる規制は、はたしてマドリード市の思惑どおりの効果をもたらすか。

白石 和幸 貿易コンサルタント

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しらいし かずゆき / Kazuyuki Shiraishi

1951年生まれ、広島市出身。スペイン・バレンシア在住40年。商社設立を経て貿易コンサルタントに転身。国際政治外交研究も手掛ける。著書に『1万km離れて観た日本』(文芸社)。

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