北朝鮮、「中国一辺倒路線」の見直しも 金正恩第1書記が、肉声で「新年の辞」を発表

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さらに、昨年の新年の辞で触れた「経済建設と核武力建設の併進路線」について、今年は具体的な言及がなかった。昨年2月には3回目となる核実験を行うなど、朝鮮半島における緊張を高めたにもかかわらず、「核」について触れたのは米国との関係で取りあげただけで、しかも抑制的なトーンだった。

礒﨑敦仁・慶應義塾大学専任講師の話

今年の新年の辞は、昨年よりも注目すべき点が多かった。まず、対外関係についての言及が抑制的だったこと。昨年3月に金正恩第1書記が提示した「経済建設と核武力建設の併進路線」については、「併進路線」との表現で1回言及したのみで、「核武力」という言葉が抜けている。昨年2月に3回目の核実験を行ったにもかかわらず、北朝鮮自身の核開発については一切触れず、むしろ「平和」を連呼している。韓国との「関係改善のための雰囲気を用意」すべきだと明言しており、「百害無益な誹謗中傷を終えるとき」だとして、「統一を望む人ならば誰であれ過去を不問に」するとした。

経済面では、昨年に法律まで制定した「経済開発区」や対外貿易に関する言及がなかったことが気になる。この点と、韓国への関係改善呼びかけを考えると、中国と名指しこそしてはいないが、従来の中国一辺倒の経済・対外関係を見直し、韓国との経済関係・交流を復活させようという意思が垣間見られる。

一方、国内向けには、張成沢(前国防委員会副委員長)の粛清もあってか、「敵どもの思想文化的浸透策動」についての言及を復活させるなど、昨年よりも思想的引き締めを強調している印象が強い。

ただし、これまでの新年の辞や金正日時代の新年共同社説を見ると、元日に表明された方針が、必ずしも実施の政策に結びつかないこともあり、1年間の展望は難しいところだ。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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