「ブラインドサッカー」日本代表エースの戦い方 2020年東京大会のメダル獲得に必要なもの

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乙武:実は先日、ブラインドサッカーを体験させてもらう機会があったんです。マスクで目隠しをして、転がると音の出るボールでゴールを奪い合う、という。実際にやってみて初めて感じたのは、見えない状態でボールを扱う難しさもさることながら、いつ相手が突進してくるかわからない怖さでした。

川村:そうなんですよ。非常に無防備な状態なので、僕も最初は怖かったです(笑)。でも、レベルの高い選手ほど、ちゃんと相手の位置や動きを察知していて、ケガをするようなこともないんです。

乙武:それは凄い。でも、見えていない状態で、どうやって相手の位置を捕捉するんですか?

川村:例えば足音や声は大切な材料です。あとはボールの動きに合わせて、各選手の動きを予測しているのも大きいと思います。いわゆる空間認知ですね。僕自身も最近はそうした接触でケガをすることは、ほとんどなくなりました。

乙武:空間認知。これはつまり、音によるデータと経験則のハイブリッドでプレイヤーの位置を予測する、ブラインドサッカー独特の要素ですね。実際、ブラジルの選手などを見ていると、本当は見えているんじゃないかと疑いたくなるような、見事な動きを見せるプレイヤーもいますよね。

2019年は「勝ち方」が問われる重要な年に

乙武:ちなみに、川村選手をはじめとするブラインドサッカーの選手にとって、聴力はやはり重要ですよね?

川村:ところが、純粋な聴力の比較でいえば、僕も日本代表のチームメートも皆、人並みなんです。ただ、音に対して敏感なのは間違いありません。僕らはボールを蹴る音だけで、蹴り足が右なのか左なのか、そして足のどの部位で蹴ったのかがわかりますから。

乙武:私たち晴眼者には想像もつかない能力です。つまり音を的確に聴き分けられれば、ボールがどこへ飛んでいくかが瞬時に予測できる、と。

川村:そうですね。鍛錬すると、ドリブルの進路もだいたい予測できるようになります。逆にオフェンス面では、ドリブル中に一瞬ボールを止めて音を消すという、“音のフェイント”みたいな技を使うこともありますよ。

「確実に勝ち切る、というのが重要」と語ってくださった川村さん(右)

乙武:面白いですね、まさしくそのあたりはブラインドサッカーならではの醍醐味です。ますます来年のパラリンピックが楽しみになってきました。メダルを狙うならば、当然3強のどこか1国を破る必要があるわけですが、そのための課題は何でしょう?

川村:得点力はもちろんですが、それ以上に「勝ち方」でしょうね。これまでは2020年を見据えて、試合内容を重視してやってきました。例えば1-0でリードしていても、とにかく攻め続けることを徹底していたんです。でもメダルを狙うには、守るべきところを堅守して、確実に勝ち切ることが第一になります。

乙武:なるほど。2019年はそうしたスタイルを育む非常に大切な1年になりますが、まだブラインドサッカーを見たことのない人にも、ぜひ今のうちに注目していただきたいですね。

川村:僕らはまるで目が見えているかのようなプレイをしますし、ゴールが決まった瞬間にはお客さんと一緒に盛り上がる一体感も味わえます。ぜひ1人でも多くの方に見に来てほしいです。

乙武:ブラインドサッカーはまだまだこれから盛り上がっていく競技だと思います。そのためにも川村選手をはじめ、代表チームの皆さんにはいっそうの活躍を期待しています。本日はありがとうございました。

乙武 洋匡 作家

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おとたけ ひろただ / Hirotada Ototake

1976年、東京都生まれ。大学在学中に出版した『五体不満足』がベストセラーに。卒業後はスポーツライターとして活躍。杉並区立杉並第四小学校教諭などを経て、2013年に東京都教育委員に就任。著書に『だいじょうぶ3組』『だから、僕は学校へ行く!』『オトことば。』『オトタケ先生の3つの授業』など多数。

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