「前払い退職金」を現金でもらうと大損する理由 新社会人や20代社員は絶対に知っておきたい

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企業の退職金制度がどう変わっているのか。最近増えたのが、社員の定年時に退職金を支払うのではなく、現役時代(在職中)に「前払い退職金」として支払う企業です。

その方法は、主に2通りあります。1つは単に現金で支給する方法。退職金を毎月の給与や賞与に上乗せして「報酬」に組み込んでしまうのです。そしてもう1つは「確定拠出年金」の掛け金として支払う方法です。

会社にしてみれば、退職金は「給料の後払い」的な性格のコストと言えます。社員が退職するまで「将来支払わなければならない債務」を抱えることになるのです。そこで「前払い退職金」にすれば、債務の負担から解放されるというわけで、ここ15年ほどの間で導入する企業が急増しました。

では、社員からすれば「前払い退職金」はメリットがあるでしょうか。今の給与として現金で受け取れるので「うれしいな」と感じるかもしれません。ただし、この場合のデメリットは、退職金を給与としてもらうことになるため、所得税、住民税、社会保険料が差し引かれてしまいます。結果として、前払いをしない場合の退職金に比べて手取り額が減ってしまうのです。

一方で、「確定拠出年金の掛け金」として受け取ると、その全額を運用に回すことができます。確定拠出年金は国が定めた法律で、60歳までは引き出せないという制限はあるものの、運用にあたっては非課税ですから、税金や社会保険料はかかりません。

前払い退職金を導入した会社が社員に対し、給与への上乗せか、確定拠出年金の掛け金かを選ばせることもありますが、「老後のために蓄える」という観点で見れば、確定拠出年金の掛け金として受け取るほうが有利です。

確定拠出年金を選ぶ場合、割り引かれる金利に注意

こうした年金制度や退職金制度の構造変化に、サラリーマンの皆さんはどう対応すればいいのでしょうか。公的年金の抑制策に対しては、ねんきん定期便などで受け取れる金額を把握し、それでどれくらい老後の生活をまかなえるか、現実を見つめて備えるべきだとおもいます。もし会社が「前払い退職金」を導入しているのなら、気をつけなければいけないことが2つあります。

1つは「勘違いしないこと」です。確定拠出年金を選択した場合であれば、ご自身の専用口座に「掛け金」に姿を変えた「前払い退職金」が少しずつ積み上がっていきます。心配なのは、給与や賞与への上乗せを選択した場合です。「退職金を前倒しで受け取っている」という認識が薄くなり、残業代などと同様に「手取り額が増えた」と勘違いして使ってしまうと、老後資金の備えがなくなりかねません。

さらに、確定拠出年金を選んだ場合も気をつけるべき点があります。「前払い退職金」は「掛け金」として口座に積み立てられますが、社員はそのお金を自分で管理し、運用しなければなりません。企業は社員の定年前に退職金を渡すわけですから、一般的に金利相当分を割り引いています。それを受け取り、運用する社員は、割り引かれた金利以上の利回りで運用しなければ、前払いをしない場合の退職金より減ってしまう、ということになります。

人は誰でも、目の前のお金には関心が強い反面、遠い将来に発生するお金はイメージしにくいものです。しかしながら、遠い将来のお金を「前払い退職金」としてすでにもらっているのなら、しっかり考えて管理しないと、老後の生活に影響が及びかねません。

退職金制度は勤務先によって異なります。退職金は前払いか、後払いか、金額はどのように決まっているのか、モデルケースではいくらぐらいなのか。ぜひ、確認してみてください。年金も含めて制度を確認する。それが、老後資金準備の第一歩です。

大江 加代 確定拠出年金アナリスト

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おおえ かよ / Kayo Oe

大手証券会社に22年勤務、サラリーマンの資産形成にかかわる仕事に一貫して従事。退社後、夫の経済コラムニストである大江英樹氏(株式会社 オフィス・リベルタス 代表)を妻として支える一方、確定拠出年金の専門家としてNPO確定拠出年金教育協会 理事、企業年金連合会 調査役として活動。野菜ソムリエの資格も持つ。

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