建築家がデザインすると鉄道車両はこう変わる 西武と小田急の新型特急、他社にはない特徴

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すでに試運転を開始している西武001系で最初に気づいたのは、「新たなフラッグシップトレインとして、池袋線と西武秩父線で運行!」というキャッチコピーでありながら、地下鉄乗り入れ対応の設計を施していることだ。

10000系ニューレッドアロー(右)と並んだ001系(撮影:尾形文繁)

ゆえに先頭部には、トンネル内での非常時に乗客が車外へ避難するための非常用貫通扉が用意されており、車体幅は既存の特急車両である10000系ニューレッドアローより狭く、「S-TRAIN」として東京メトロ有楽町線や副都心線などに乗り入れている40000系のように、垂直の平面となっている。

地下鉄直通への配慮も

西武001系は小田急で言えば70000形よりも、2008年から営業運転を開始した東京メトロ千代田線乗り入れ対応のMSE60000形に近い。

地下鉄対応の小田急ロマンスカーMSE60000形(撮影:梅谷秀司)

しかし乗り入れのための設計要件を満たしながら、裾に丸みをつけて硬さを和らげるなど、きめ細かい配慮も見受けられる。

70000形や2005年に走り始めたVSE50000形のような、床下機器を覆うカバーがつかないことも、地下鉄対応のためと言える。

かつて地下鉄用車両にもカバーを装着した事例があった。千代田線用に開発された6000系の第1次試作車だ。こちらも騒音低減が目的で、床下機器のみならず台車までカバーで覆っていた。

しかしながら開発当時の状況を記した『鉄道ピクトリアル』2008年3月号の記事によると、乗ってすぐにわかるような騒音低減効果は得られず、逆にトンネル内で車両故障などにより停車した際、点検用の蓋を開け修理するのが大変になることから、すぐに撤去されたという。こうした経験が以降の地下鉄走行用車両に反映されているのかもしれない。

西武001系に話を戻せば、このような制約をクリアしたうえで、2016年に発表された最初のイメージスケッチにほぼ近い、3次曲面を使った大胆な先頭部を実現したのは見事である。西武からの要望は「いままでに見たことのない新しい特急車両を」というものだったそうだが、その要望がしっかり具現化されている。

西武001系は3次曲面になった先頭部の形状が独創的だ(撮影:尾形文繁)

なかでも目を引くのはやはり、曲線半径1500mmの3次曲面ガラスだ。自動車では3次曲面の前面ガラスは一般的であるが、ここまでの曲率は珍しい。歪みを抑え、ワイパー性能を確保するのに苦労を重ねたことが想像できる。

側面では縦1350mm×横1580mmにもなる大型窓ガラスが特徴だ。こちらは平面ガラスのようである。車体側面が平面なのは、このガラスとの整合性も考えた結果もあるのではないかと思われる。地下鉄乗り入れ対応をしながら、高速車両らしい曲面をサイドに与えた小田急60000形とは対照的だ。

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