日本人の気質は「縄文時代」から変わっていない なぜ縄文時代が終わったのかを考えてみた

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「はい、今日からあなたは弥生人ね」などということはない。水田稲作を行い、それに付随する社会システムを採用した縄文人を縄文系弥生人という。

なんでその選択しちゃったかねー。

コメはそんなに魅力的だったのだろうか。その選択によって、備蓄が始まり、持てるものと持たざる者が生まれ、土地に縛られ、争いが生じて、それまでとはまったく違う価値観によって生きていかなければならなくなったのに――。と、私などは思うのだが、当の本人たちは、きっとコメのうまさにそんな判断もできなかったのかもしれない。

縄文人と現代人は似ている

縄文人の選択を思うと、なんだか鬱々とした気持ちになる。わざわざ苦労を取りに行ったも同然だ。

しかし、一方で、彼らの選択をみると、現代人の中には縄文人の気質が色濃く残っているとも思う。日本人はさまざまな時代で、外の文化をうまく咀嚼し、受け入れて、オリジナルの文化に作り上げてきた。そう思うと、それは縄文時代の終わりに始まったと言える。

好奇心が強かったのか、新しもの好きだったのか、はたまた、腹が減りすぎてまともな判断ができなかったのかはわからないが、縄文人は、海の向こうから来た人々と大々的に抗争をすることなく、うまく文化を取り入れた。自分とは違う価値観を持った相手をたたきのめすのではなく、うまく改変し、取り込んだ。それは、生き延びるための戦略とも言える。

縄文人たちは、類稀なるコミュニケーション能力と受容によって、渡来の人々を受け入れたことになる。まあ、結果は、前述のとおりではあるのだが……。

とはいえ、1980年代に盛んに欧米に言われた日本批判は、縄文人の気質だったのではないか。ほかの文化や技術を受け入れ、模倣し、オリジナルに仕上げる姿は、日本人に受け継がれている気がしてならない。

いくら時代が下っても、「お天道様が見ているよ」と思う日本人の中には、DNA以上に色濃く縄文人の息吹が残っているのだと思う。

今また注目を浴びた縄文時代。きっとこの先、何度も揺り戻しがくるのだと思うが、息苦しくなった時には、自分の中の縄文DNAを思い出してみることをおすすめして、この連載を終わりたい。

譽田 亜紀子 文筆家

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こんだ あきこ / Akiko Konda

岐阜県生まれ。京都女子大学卒業。奈良県橿原市の観音寺本馬遺跡の土偶との出会いをきっかけに、各地の博物館、遺跡を訪ね歩き、土偶、そして縄文時代の研究を重ねている。現在は、テレビ、ラジオ、トークイベントなどを通して、土偶や縄文時代の魅力を発信する活動も行っている。著書に『はじめての土偶』(2014年)、『にっぽん全国土偶手帖』(2015年、ともに世界文化社)、『ときめく縄文図鑑』(2016年、山と溪谷社)、『土偶のリアル』(2017年、山川出版社)、『知られざる縄文ライフ』(2017年、誠文堂新光社)、『土偶界へようこそ』(2017年、山川出版社)。近著に『縄文のヒミツ』(2018年、小学館)、『折る土偶ちゃん』(2018年、朝日出版社)がある。

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