日本人が大好きな「安すぎる外食」が国を滅ぼす 「ビッグマック指数」に見る経営者の歪み
実際、購買力を調整したビッグマックの価格と最も相関関係が強い要素が何かを分析すると、最低賃金だという答えが導き出されます。結局、日本では最低賃金が極めて安く、安い賃金で人が雇えるので、ビッグマックを安い価格でも提供できているのです。
より正確に言うと、購買力調整後の最低賃金の水準が、1人当たりGDPという国全体の生産性に対して低ければ低いほど、かつ、最低賃金、もしくはそれに近い水準で働いている労働者の割合が高くなればなるほど、ビッグマックの価格が下がる傾向が確認できます。日本は1人当たりGDPに対する最低賃金の割合がヨーロッパに比べて異常に低く、アメリカに近いですが、アメリカでは最低賃金で働いている人の割合は日本に比べて非常に少ないのです。
「安売り」のメリットとデメリット
ここで考えなくてはいけないのは、ビッグマックを途上国並みに安い価格で売るために、労働者は非常に重い負担を背負わされているわけですが、何かそれを上回るメリットはあるのかという点です。
日本ではこれから何十年にわたって、高齢化がどんどん進み、人口は減少する一方です。このような状況下で、ビッグマックの価格が安いからといって、需要が喚起されることは考えづらいです。「安く買えるのなら所得の少ない人にとって、メリットは大きい」と主張する人もいるかもしれませんが、ビッグマックの客層が低所得者に限定されているという事実はまったくありません。
「給料を上げても物価も上がるから、結局何の意味もないじゃないか」という、経済学リテラシーのない反論もよくいわれます。しかし、マックを食べる層とマックで働く層は完全に同じではありませんし、その割合が高いとはいえ、付加価値の構成要素には給料以外のものも含まれますので、給料を上げてビッグマックの単価を上げても、同じだけ物価が上がるわけではありません。ゼロサムではないのです。アメリカの分析によると、最低賃金を10%上げると、食料品の価格が約4%上昇するものの、全体の物価水準に対する影響は0.4%にとどまるとしています。
ですから、日本ほどではないにしても日本と同じような人口減少問題を抱えるヨーロッパの先進国では、どこもビッグマックの価格が高く、最低賃金も高いことの背景と理由を真剣に考えるべきです。最低賃金はイギリスは1999年、ドイツは2015年から導入し、徐々に引き上げています。政府が労働市場に介入している動きに、特に注目しています。
人口減少の中、過当競争に対応するため、会社は商品価格を下げてなんとか生き残ったかもしれませんが、それ以外のメリットはよくわかりません。労働者へのデメリットは非常に大きいです。しかも、デメリットはそれだけではありません。
日本人の生産性はイギリス人とほぼ同じですが、最低賃金はイギリスの7割しかもらえていません。最低賃金を低く設定して、それをベースに商品の価格を下げているのです。その結果、本来もらうべき給料がもらえなくなっているので、払えたはずの税金も払えなくなってしまっています。所得が低く抑えられているので、消費に回らず、間接的に消費税へも悪影響を及ぼしています。ワーキングプアも増えます。
人口減少の下、このように、ビッグマックの価格が安いことによって生じるメリットに比べて、ビッグマックを安く提供することを可能にしている、極めて低い最低賃金のデメリットのほうが何倍も大きいのです。
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